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朝から晴天のY駅前の噴水横。
午前10時35分。
―――忠犬のようだわね。
私はアンドロイドの彼が待ちぼうけしているところを、いつものように駅ビル1階喫茶店の窓際から眺めている。
白いシャツがよく似合う、誰が見てもイケメン。
爽やかな笑顔のまま、改札から私が出てくるのを姿勢良くじっと待っている。
さっきから声をかける女が何人もいたけど、丁寧に断っているようだ。
断られた女達は、遠巻きに彼を見つめている。
さて、そろそろ迎えに行ってあげようかな。
私は紅茶とパンケーキのお会計をし、駅構内側の出入り口から喫茶店を出る。
改札の手前の通路から出ると、彼はすぐに私を見つけたようで満面の笑みで手を振ってきた。
周辺にいた女達の視線が私へ集中する。
「はぁ!?」「マジで!?」「あり得ない!」
女達は驚きのあまり叫ばずにはいられないらしい。
そうよ、このイケメンはこの私を待っていたの。
羨ましいでしょう。
彼は私を愛しているんですって!
「おはよう。待たしちゃったかしら」私は悪びれもなく彼のそばへ歩み寄る。
「おはよう。君のためなら何時間でも待っていられるから大丈夫だよ」
彼は嬉しそうに答えた。
うん、まず合格。
ここで怒る奴、「今来たところだよ」と言う馬鹿な奴は不合格。
「いいわ、私の彼氏にしてあげる。あなた、名前は?」
「本当?嬉しい。僕は叶夢。夢を叶えるって書くんだよ」
「へぇ、叶夢。面白い名前ね」
私がフッと笑うと、叶夢はまた嬉しそうに笑った。
……アンドロイドに夢を託すなんて、あり得ないわ。
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