彼氏

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「東洋館の限定マドレーヌ買ってきて」 「サーカスが観たいの。連れていって」 「この雑誌の特集の女の子と同じデザインの服が欲しいの。ブランドはこだわらないしお金に糸目は付けないから、週末までに揃えておいて」  私がどんなにわがままを言っても、叶夢は全力で応えてくれる。  アンドロイドというのは都合が良いものだ。  私を愛しているという事はブレないし、浮気の心配もない。 「疲れた」などと泣き言も言わない。  ただ、最近少し気になる事がある……。 「ねぇ、パパ」 「何かな、博愛ちゃん。アンドロイドの彼とは上手くやっているかしら?」 「そう、その彼なんだけどさぁ…最近変なの」  実は、叶夢がイケメンで無くなってきたのだ。  キレイにセットされていたサラサラの髪は痛み、姿勢は猫背気味。  目はしょぼくれた輝きの無い瞳。  何より顔の変化が気になる。  細かったアゴは丸く、エラが張ってきた。  鼻もこんなに低かったっけ?  健康的な肌はくすみ、髭剃り後のような部分的な青肌も気になる。 「えー、そうなの?どうする?買い替える?」とパパ。 「んー…そうしようかなぁ」  叶夢のことは嫌いじゃないけど、イケメンに越したことはない。 「あぁでも、全く一緒のアンドロイドは入手できないそうだよ」 「え?同じ顔を量産しているわけでは無いの?」  聞けば、生産するアンドロイドは全て顔も背格好も異なり、人格形成のためのプログラムも全て異なっているらしい。  その上学習機能を持つAIを組み込んだアンドロイドに、24か月かけて実際の幼稚園から社会人になるまでの経験を積ませ、1つとして同じアンドロイドは存在しないようになっていると。 「それは…嫌だな」  買い替えたところで「叶夢」でないのなら、私が気に入るかどうかわからない。 「どうしてそうなったのか、彼に聞いてみたのかい?アンドロイドであっても、気になる事はそのままにせず、話してみてはどうなのかな」  パパはニコニコして提案してくれた。
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