そうじゃない

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 怖い。特に何かしてくるわけじゃないけど、存在が無理だ。アイツの挙動にすごく敏感になっている。  どうしよう。誰か、来てほしい。一人だとあらぬことをいろいろ想像してしまって、恐怖心がどんどん膨らんでいく。  今、夜の八時過ぎ。こんな時間に誰を呼んだらいいのか。そんな時にパッと頭に浮かんだのが友達の遼河(りょうが)だ。遼河なら頼りになる。以前もアイツが飛びかかってきた時にちょうど遼河がいてくれて、すごく心強かったのだ。 「遼河……お願いがあるんだけど……今からうちに来てほしい……」  スマホの向こうで、遼河も私のただならぬ雰囲気を察してか「何? どうしたの?」と困惑しているようだ。 「遼河しか頼める人がいないの……早く……うちに来て」 「え……」    緊急事態だというのに、スマホから伝わる遼河の様子は、若干めんどくさそうなのが伝わってくる。 「こんな時間に、何か用事?」  私は今現在アイツの存在に怯えているのに、ため息混じりに用事を聞いてくる遼河の態度に、少し苛立ちを覚えた。 「とにかくうちに来てと言ったら来て!」  かすかに遼河の声が聞こえていたけど、もう指が電話を切ってしまった。その後に、かなり一方的で不躾な物言いだったかなと少し申し訳なく思った。でも、状況的には全然余裕がなくて、藁をも掴む思いで遼河の到着を待つことにした。
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