そうじゃない

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「やった〜! ありがとう遼河〜! 命の恩人だよ〜!」  緊張の糸が切れた私は、自分の意思とは無関係に涙が次々と溢れてきた。力が抜けたかのように床に座り込んで、止まらない涙を手でぬぐう。そんな私を見て、遼河が狼狽えている。 「え〜……そんなに泣かなくても……」 「だって、めっちゃ怖かったんだから〜!」  あんなに大きくて素早くて、本当に気持ち悪くて、視界に入るのも嫌で、動くたびに怯えながら遼河が来てくれるのを待っていた。 「やっと安心してお風呂に入れるよ〜! 本当にありがとう〜!」 「そんなに喜んでくれて、俺も頑張った甲斐があったよ」 「これで堂々とエアコン前で裸になれる!」 「だから、なんで裸?」 「風呂上がりはいつもエアコンの前で裸で涼んでるの! ……って、女の子に何言わせるのよ!」 「え〜! 自分が言ったんじゃん!」   両手を上に伸ばして、怖くて力が入っていた身体をほぐした。 「あのさ、千笑、俺……」  遼河が何か言いかけていたけど、私は自分の気持ちを言い切った。とにかくお礼が言いたくて。 「本当に来てくれてありがとう。これからもよろしくね」  部屋の空気がなんとも清々しい。回した首がバキバキと鳴る。 「えぇと。これからもよろしくって……どういう意味で……」  遼河は手で口を押さえながら遠慮がちに聞いてきた。 「もちろん、これからもクモ退治をよろしくってことだよ」 「あはは、だよなぁ……そんな気がしてた」
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