そうじゃない

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 遼河の様子が挙動不審だ。さっきまで頼もしく思っていた背中が、急に頼りなく思えた。 「お、俺……そろそろ……」 「こら〜!」  踵を返し玄関へ向かおうとする遼河を引き止めた。 「あああんたは、怖がってる私を一人、こここんなところに置いて逃げるつもりかい?」  遼河の腕にしがみつく私の腕が、絡まって離さない。 「こんなところって……ここ千笑(ちえ)の家じゃん!」 「それはそうなんだけど!」 「アダンソンなら大丈夫だけど、アシダカグモは俺も無理だ!」 「一生のお願い! 頼れるのが遼河だけなの!」    私も死に物狂いで引き止めているので、遼河もそれ以上は動けない。プルプル震える腕が離すまいと、こんなにも必死にくっついている。  しばらくすると遼河は深いため息をついた。 「分かったよ」  腕の緊張が緩んだ。するりと抜けた遼河の腕が、私の肩を軽く叩いた。 「俺も男だ。女の子にそこまで言われたら、やるしかないでしょ!」  ガッツポーズの立ち姿がまるで勇者みたいで、後光が差しているように見える。……あ、部屋の照明か。 「さあ! どこだ、アシダカグモ!」  言ってる言葉とは裏腹に、後ろ姿がめっちゃ腰引けてる。 「あ」  と、私が発した声に「わ! どこ!?」と、こっちがビックリするほど騒いで、遼河は私の後ろに隠れようとした。いやいやいや、ビビりすぎでしょ。
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