そうじゃない

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「遼河ってさ、クモのこと詳しいけど好きなの?」  やけに詳しいから気になって聞いてみたけど、遼河は眉間にシワをよせて小刻みに首を横に振った。 「こんなに嫌がってるのに、好きなわけないだろ」 「だって、めっちゃ詳しいじゃん」 「違う違う。嫌いだから少しでも好きになろうとして、小学校の自由研究でクモについて調べたんだよ」 「へぇ。で、好きになった?」 「クモの写真いっぱい見過ぎて、気持ち悪くてさ。余計に嫌いになった」 「あはは! 遼河らしい」  少し口をとがらせて、遼河は恥ずかしそうに頭を掻いた。 「なんだよ、千笑が死にそうな声で『俺しか頼れる人がいないから来て』って言うから心配して来たのに、何かと思えばよりによってクモだし」 「え〜、ごめん! でもマジで頼りになるよ」 「……頼りになる? 俺」 「アシナガグモどうにかしてくれるんでしょ?」 「アシダカグモね……」  名前なんてどうだっていいのよ。とにかくあの恐ろしいビジュアルのクモを、早くこの部屋から消し去りたい。 「あ!」  遼河が指を差して大声を出した。私は「ギャー!」っと叫んで遼河の腕にしがみついた。目をぎゅっと閉じて、「早くやっつけて!」と震えた。 「いや、動けねーだろ」  ふふっと遼河の笑い声が聞こえて、恐る恐る目を開けた。笑う遼河の向こうには、いつもの私の部屋があるだけ。クモは見当たらない。
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