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「わ〜! ごめん! しがみついてた!」
意外とたくましいその腕に、咄嗟のことだったとはいえ、しがみついてたなんて……。
「さっきの仕返しだよ」
「え〜! ひどい! 嘘だったの?」
私が怒っているのに、その様子を見てケラケラ笑う。悔しくて揺れる背中をポカスカ叩いた。「痛い痛い」と言いながら、まだ遼河は笑っている。私は恥ずかしさのあまり、まだ顔が熱い。
両手で顔をパタパタと仰ぐ私を見て、遼河は深く息を吐いた。
「今日、こんな時間に呼び出されてさ、なんだろうって緊張しながらここまで来たんだよね」
「え? そうなの?」
もう何度もうちに来たことあるのに、今更なんだっていうの。
「俺と千笑の仲だし、千笑はなんとも思わないのかもしれないけど、あんなふうに電話かけてきたらさ……」
遼河はなんだか歯切れが悪い。私たちは同じ大学で、いつもつるんで、仲良くしてる。それなのに、何をそんなに遠慮しているのか。
「何が言いたいの?」
「うん……えと……いろいろ期待するだろ?」
ほんのり耳を赤くして視線を逸らす遼河。
「え、依頼料とか?」
「……そうじゃない」
「ごめん、あんまりお金持ってないんだけど」
「だから、そうじゃない」
なんだ、この空気は。ちょっと待って。なに、なに。遼河どうしちゃったの。
いつになくまじめな顔で、ゆっくり近寄ってくる。
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