そうじゃない

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「俺……」  遼河が何か言いかけていたけど、私はもそもそと動く物体の存在に気づいてしまった。そう、今はそれどころではない。 「ぎゃ〜! いた〜!」 「え!? どこ!?」    私は諸悪の根源を見つけてしまった。遼河越しに見た壁に張り付いてこちらの様子を伺っている。指が差す方を遼河も振り返って叫んだ。 「わ〜! 無理無理無理! やっぱ無理!」  私は必死で遼河をクモの方へ押し出そうとしている。それに抵抗して遼河は私の方へと後ろ向きで下がってくる。どっちつかずの攻防が繰り広げられていた。 「やっつけてくれるんでしょ!」 「待って! 無理だよ! 怖い!」 「男だろ! しっかりしろ!」 「こんな時に、男も女もあるかよ!」 「あ、ちょっと待って」    私は部屋をキョロキョロと見渡し、視線の先にあったクイッ◯ルワイパーを遼河に渡した。 「これでいける! 遼河! 頼んだ!」 「え〜!」  渋々受け取った遼河は、両手で構えてゆっくりとアシダカグモを狙った。早まる鼓動を無視して、そっと近づく。私は息を潜めてその時を待つ。  クイッ◯ルワイパーがもう少しで届きそうなその時、アシダカグモはあろうことか逃げたのだ。 「キャーーーー!」  ヤツが素早いことは百も承知だけど、機敏な動きに私も遼河もパニックだ。遼河はクイッ◯ルワイパーを投げ出して、慌てふためく私とぶつかって一緒に床に倒れ込んだ。
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