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学校を出る時にはあった。
噴水公園へ向かっている最中にもあった。
一度、公園内でスマホを取り出してはいるが、その時どうだったかは覚えていなくて。
今、木雪の話題が上がって、ふと彼女のゆかりの物に目をやろうとして、それがあるはずの場所にないことに気づいた。
となると、真っ先に疑うべきは、公園内でスマホを取り出した時に落としてしまった可能性だ。
木雪たち開発部の汗と涙と血の結晶であるセンサーの試作品をなくしてしまったとあって、雷奈は貧血でもこうはなるまいという顔面蒼白および冷や汗たらたら具合だ。
氷架璃と芽華実に励まされながら噴水公園まで戻り、鏡像を問いただすだのなんだのとうそぶいていた辺りにやってきて――。
「あっ!」
雷奈の俊足が発揮された。秋色に変わり始めた短い芝の上に、黒い筐体がぽつんと転がっていた。どうやら紐が切れていたらしい。
「あったぁ……よかったぁ……」
一気に戻っていく雷奈の顔色はわかりやすく、心境のサーモグラフィーのようだ。
「これで安心して夕飯が食べられるな」
「本当ったいー」
帰ったらウエットティッシュで拭いて、新しい紐に付け替えてあげよう。
そう思いながら、再会したストラップに手を伸ばして――。
ビィィィイイイイッ!
けたたましい音が鳴った。
雷奈が思わず手を引っ込める。氷架璃や芽華実たちも、大きく心臓が跳ねると同時に身をすくませた。
警報音のようなブザーは、繰り返しビィィイイッ、ビィィイイッ、と鳴り続けている。
本能的な警戒をかき立てる、突然の大音量。音そのものに気を取られて、それが意味するところを理解するのにタイムラグがあった。
音を発しているのは、雷奈がスマホストラップにしている筐体で。
その筐体は、チエアリ検出センサーの試作品で。
センサーが反応するとは、すなわち。
ガシャンッ!
雷奈の目の前で、センサーが砕け散った。
横から飛んできた、弾丸のような何かに撃ち砕かれたように見えたセンサーの破片は、水をかぶったように濡れていた。
開発部の粉骨砕身の成果があっけなくスクラップと化したことを嘆くよりも。
すぐそばを一発の弾丸が通過していたことに戦慄するよりも。
もっと圧倒的に高い優先順位に基づき、一同は振り返った。
鏡像に二度会って襲われ、三度目に極めつけとあらば、もうしばらくは噴水公園へは来られなさそうだ。
「こんにちは、皆さま」
そこには、黒猫がいた。
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