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最高司令官室が収められた屋舎まで道中を共にすることになった雷奈達に、美雷は「ごめんなさいね」と口を開いた。
「本当ならもっと早くに雷志さんに挨拶するべきだったんだけど。もう冬も終わって春になってしまったわ」
「よかよ、気にせんで。……もう体は大丈夫と?」
その件については、氷架璃と芽華実も気にかかっていたので、二人も歩きながら美雷を見つめる。
ガオン襲撃の騒動にかかり、美雷はとにかく様々な対応に追われた。隊員の配置、作戦の立案、他機関との連携、情報の把握、取捨選択の判断。そして騒動が済んでからも、事態の全容把握に度重なる会議と、休む間もなかった。
それらを片付けつつ、二月の上旬に一度、雷志と面会するためのアポイントメントを取り付けていた美雷は――過労だろう、三日前になって熱で寝込んでしまった。
代理の霞冴からキャンセルの連絡があったのだが、他の隊員達もたいそう動揺したようだ。なにせ、いつも万事を些事のようにいなし、笑顔と余裕を手放さないあの美雷が倒れたのだ。雷奈達も、スカイツリーが倒れる方がまだありえそうだと思ったほどだ。
「ええ、今はもう大丈夫よ。心配をかけてしまったわね」
振り返って笑顔を見せる美雷は、すっかりいつもの彼女だ。いっそ熱を出している間もこの調子だったのではないかと思われるほどだが、いくら何でもそれはないだろう。
「寝ている場合じゃなかったのだけど、三十八度七分も出ちゃったからね。さすがにおやすみさせてもらったわ」
「あんたもそれくらいの常識はあったんだな」
「三十八度六分までだったら、いつも通り出勤するところだったんだけど」
「前言ひっくり返すわ! 何その中途半端な一分の差!?」
そのような事情で、雷志との面談は三月下旬に持ち越されたのだが。
「年度末の忙しい時期に一週間もおやすみしちゃったから、熱が下がったその日から張り切ってお仕事したの」
「そしたら?」
「今度は三十九度を超えちゃったわ」
「だろうな!?」
三月半ばに高熱で再度倒れた後、結局そのまま、月末まで体調不良が長引いてしまい、雷志との面会はまたも中止となってしまった。こうして、三度目の正直でようやく本日、対面が叶うことになったのである。
「その間の霞冴ちゃんは頼もしかったわね。頻繁に私の様子を見に来ながら、てきぱき仕事を回してくれて」
「そりゃそうだろ。あいつは元最高司令官なんだから」
「霞冴、随分心配していたでしょう」
「美雷も無理しちゃいかんとよ。霞冴のこと言えんよ」
「ふふ、そうね」
聞き入れてくれたのかどうか怪しいのんきな笑顔を見せると、美雷は「それじゃ、私はここで」と中央隊舎の方へ足を向けた。彼女に手を振ると、雷奈達は正門から希兵隊本部を後にする。
結局、何をしにきたのかよくわからないことになってしまった。すでに雷志を連れて帰宅しているであろう雷華に、お茶の準備もせずに出て行っていたことをどう説明するか考えなければならないことに気づいたのは、ワープフープを通って見慣れた世界に戻ってきた後だった。
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