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「それからは、少しずつ自分のことを話してくれるようになったわね。星猫であること、猫力学研究者だったこと、夜にお散歩するのが好きだったこと。歩道橋以外の場所でも話をするようになったわ。やけに顔色が悪いと思ったら、ご飯を食べていないようだったから、おにぎりとかお弁当とかを持って行ったりもしたわね。初日は間違えて豚の生姜焼きを詰めていって、嫌な顔をされてしまったけど」
「さすがの親父も、他のフィライン・エデンの猫と同じく肉は食べんっちゃか。ムシャムシャいってもおかしくない風貌やったばってん」
「むしろ、ご飯食べる方が意外だけど。チエアリってご飯食べんの?」
「でも、ガオンは血を流していたくらいだから、普通のチエアリとは違うのよね?」
「あ、そっか」
氷架璃と芽華実の議論に、なぜか目をぱちぱちさせていた雷志だが、雷奈に視線で先を促され、再び口を開いた。表情を少しだけ曇らせながら。
「そうして、ある種の逢瀬を重ねていくうちに……一か月くらいたったころかしら、ついに打ち明けてくれたの。自分が……未来から来たこと」
その時の雷志の衝撃たるや、察するに余りある。実際に時間飛躍の経験がある雷奈達でさえ、その事実を最初に耳にした時は驚愕したものだ。まして、もっと平凡なフィライン・エデン生活を送っていたらしい雷志には、目の前の男がタイムスリップしてきたなど、受け入れ難い事実だっただろう。
「母さんは……すぐに信じられたと?」
「私も、初めは聞き間違いかと思ったわ。でも、源子はそれを可能にするとは聞いていたし、フィライン・エデンへ行けること自体が空間飛躍だから、時間飛躍の結果を目の当たりにしても抵抗がなかったというか」
彼女の言には雷奈達も同感だった。一度日常から足を踏み外してしまえば、向こう側がどれほど深い非日常であったとしても、もはや日常ではない点で変わりがない。この二年間で身をもって感じてきたことだ。
「ただ、猫力学者なのに時間飛躍できたというのは驚きだったわ。そういうのは時空学の領域と聞いていたから」
「それはチエアリとしての能力っちゃろね。チエアリになってから、フィライン・エデンを破壊して、過去に飛んだとすれば、辻褄も合うし」
腕組みして言う雷奈に、氷架璃と芽華実はうんうんと頷いていた一方で、雷志は訝しげに首を傾げた。
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