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調査室の室長が替わったのは、そう前でもない、今年の春のことだ。
「えっ、オレが!? 三賢者!? マジで!? いいの!?」
中央管理室――三階の大部屋、局長の坐す一室に呼ばれたイヅナは、局長に言い渡された事柄を興奮ぎみに何度も確かめた。
局長は、イヅナの熱気にも汗一つかかず、泰然と頷く。
「まだ年若いが、次期三賢者にふさわしい能力、経験、気質を有しているのはお主であると判断されたゆえにな」
年若い、というフレーズを苦笑いぎみに反芻しながら、イヅナはトップの前でも委縮する様子もなく、頭の後ろで手を組んだ。
「長老が引退する年なのはわかるけどよー、また幹部の年齢層が低くなっちまって、大丈夫か? まだエンピツおばさんがいるとはいえ、さ」
「誰がエンピツおばさんでござぁますか?」
そこで初めて、彼の顔に緊張が走った。白で統一されたいくつものデスク、その一つの陰から出てきた眼鏡の猫を、ぎこちなく振り返る。
「い、いたのか……いや、いたんすか」
「相変わらずでござぁますね、イヅナ君?」
三賢者が一人、通称「エンピツおばさん」。主体時の耳が先っぽだけ黒く細長いことから、あるいは細っこく背の高い双体姿をしていることから命名された――が、恐れ慄くあまり呼ぶ者は少ない。
チェーンのついた眼鏡をくいとやりながら、彼女はイヅナを見据える。
「それで、後継は決まったのでござぁますか?」
「そだねー。次の室長決めなきゃだよねー」
のんびりと間延びした声でそう言ったのは、デスクに腰掛け、ぱらぱらと書物をめくっていた少女だ。彼女が、長老、エンピツおばさんに続いて三賢者となった、スピード出世も甚だしい元管理室室長だ。
ちなみに、先程から一言も発さないが、局長にほど近いデスクの上に、この度退職する、けうけげんのような長毛極まる猫も座っている。寝ているのか起きているのかわからない、ほけっとした柔和な目元が特徴だ。
「順当にいけば、うとめさんが後継となりそうでござぁますね?」
「そだねー、しっかりしてるしねー」
局長も重くうなずく。長老もうなずく――舟をこいでいるわけではなさそうだ。
「あー……それなんだが」
幹部一同の視線と、宇奈川うとめという局員への期待を浴びて、イヅナはきまり悪そうに頭をかいた。
「オレとしては、次の調査室室長は……」
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