62|学園追放

8/21
前へ
/214ページ
次へ
***  調査室の室長が替わったのは、そう前でもない、今年の春のことだ。 「えっ、オレが!? 三賢者!? マジで!? いいの!?」  中央管理室――三階の大部屋、局長の坐す一室に呼ばれたイヅナは、局長に言い渡された事柄を興奮ぎみに何度も確かめた。  局長は、イヅナの熱気にも汗一つかかず、泰然と頷く。 「まだ年若いが、次期三賢者にふさわしい能力、経験、気質を有しているのはお主であると判断されたゆえにな」  年若い、というフレーズを苦笑いぎみに反芻しながら、イヅナはトップの前でも委縮する様子もなく、頭の後ろで手を組んだ。 「長老が引退する年なのはわかるけどよー、また幹部の年齢層が低くなっちまって、大丈夫か? まだエンピツおばさんがいるとはいえ、さ」 「誰がエンピツおばさんでござぁますか?」  そこで初めて、彼の顔に緊張が走った。白で統一されたいくつものデスク、その一つの陰から出てきた眼鏡の猫を、ぎこちなく振り返る。 「い、いたのか……いや、いたんすか」 「相変わらずでござぁますね、イヅナ君?」  三賢者が一人、通称「エンピツおばさん」。主体時の耳が先っぽだけ黒く細長いことから、あるいは細っこく背の高い双体姿をしていることから命名された――が、恐れ慄くあまり呼ぶ者は少ない。  チェーンのついた眼鏡をくいとやりながら、彼女はイヅナを見据える。 「それで、後継は決まったのでござぁますか?」 「そだねー。次の室長決めなきゃだよねー」  のんびりと間延びした声でそう言ったのは、デスクに腰掛け、ぱらぱらと書物をめくっていた少女だ。彼女が、長老、エンピツおばさんに続いて三賢者となった、スピード出世も甚だしい元管理室室長だ。  ちなみに、先程から一言も発さないが、局長にほど近いデスクの上に、この度退職する、けうけげんのような長毛極まる猫も座っている。寝ているのか起きているのかわからない、ほけっとした柔和な目元が特徴だ。 「順当にいけば、うとめさんが後継となりそうでござぁますね?」 「そだねー、しっかりしてるしねー」  局長も重くうなずく。長老もうなずく――舟をこいでいるわけではなさそうだ。 「あー……それなんだが」  幹部一同の視線と、宇奈川うとめという局員への期待を浴びて、イヅナはきまり悪そうに頭をかいた。 「オレとしては、次の調査室室長は……」
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加