62|学園追放

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***  ――さて。  すばやく頭を切り替えた宮希は、モニターに向かい、マウスを握る。左利きの握りに合わせたエルゴノミックマウスは、ガジェット一つ一つにこだわる彼のお気に入りの一品だ。  スリープ状態になっていたパソコンを揺り起こし、菫から受け取ったデータを開いてちょちょっと編集。ショートカットキーとマクロをふんだんに駆使し、あっという間に分析ソフト対応の形に並び替えると、当該ソフトを起動させ、事情聴取結果を読み込ませる。  このようなテキストデータは、いわゆる質的データと呼ばれるもので、まずは頭から通して読むことが多い。  だが、宮希は一度、量的データ――すなわち数値で表せる結果にする。質的データを軽んじているわけではなく、それが自分の思考スタイルに合っていることを知っているからだ。  数値で表されたデータを一望して、外観を把握して、着目すべき点や視点の枠組みの案をいくつか出しておく。先入観にとらわれるのでは、という批判もあろうが、あくまでも「案」であり「可能性」であることを念頭に置くことは常に意識している。それに、これまでこの方法で分析を担ってきて、失敗したことは一度もない。  結果が出力された。まずは共起ネットワーク図と呼ばれる、円で囲んだ単語を、よく使われるもの同士で線で結んだ図だ。頻出単語ほど、大きな円で表される。  話を聞いている限り、「襲う」「自分」などの単語の頻出が予測された。表現の違いこそあれ、全員からこれらに類する単語が出てきて然るべしだった。  だが。 「……は?」  図を目にした宮希の口から、懐疑心の塊が音となってこぼれた。  確かに、予測していた単語が大きな円を描いている。しかし、それと同じ規模の円が、予想だにしていなかった単語を伴って紛れ込んでいた。まるで仲間同士で集まっているひと達にカメラを向けたら、全くのよそ者が前にしゃしゃり出てピースサインをしてきたかのような違和感だ。  しばらく呆けた後、確認のため、事情聴取内容の書き起こし本文のファイルを開いた。検索機能で、そのよそ者を探す。  次のひとも。その次のひとも。事情聴取に応じた被害者は皆、話のどこかで、と共にを述べている。  イヅナに語った分析手順は大きく狂った。分析の必要すらなかったのではないか。これほどならば、おそらく、向日葵と菫も聴取の途中から気づいていたはずだ。  被害者全員が、あのの翌日から、三日連続で鏡の空目(そらめ)を生じるなど、偶然であってたまるものか。
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