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美雷との通話の後、アワとフーは、引き続きフィライン・エデンには近づかないよう雷奈たちに言いつけた。
ユメも、最近出会ったばかりとはいえ木雪も、雷奈たちの友人だ。彼女らのピンチをただ懐手で傍観しているなどいたたまれない。だが、二人の潔白を証明する証拠をもっていない以上、口出しはできないのも事実だ。
仕方なく、おとなしく下校し、雷奈は巫女の仕事、氷架璃は祖父母の手伝い、芽華実は家事があるからと言って、その日はアワとフーとは別れた。
そして、再集合した三人はフィライン・エデンに来ていた。
「おとなしくなんてしてられっかー!」
「要は、鏡像ば捕まえて、自分の正体ば吐かせればよかとよ! 呪符以外の現象で現れたなら二人は晴れて自由の身! ……呪符からできたっていわれたら……」
「……不利すぎる証言ね……」
「ネガティヴ思考禁止ー! きっと奇天烈で奇想天外な別の何かだ! 二人を信じろ!」
「とにかく、鏡像に会わんことには何もわからんけん、また同じ場所に来たわけやけど……」
雷奈はぐるりと噴水公園の広場を見回した。平日だからか、ひとけはほとんどない。離れたところからはボールの音や子供の甲高い声が聞こえてくるが、この入り口から少し進んだ中途半端な地点に留まっているのは雷奈たちだけだ。
「そう都合よく出てきてくれるわけじゃないわよね……」
「アワとフーにバレる前に済ませられればいいっちゃけど……」
スマホの時計を見ながらぼやく雷奈。
……の、背中に届く叫び声。
「君達ィィィ!」
「あ、バレた」
全速力で四足ダッシュしてきた水色の猫は飛び上がると、振り返りかけた氷架璃の側頭部に猫キック。同じく飛び上がった白色の猫は、振り返りきった芽華実の額に頭突きを食らわせた。
「どうして来てるの!? なんでさらっと言いつけ破ってるの!?」
「ごめん、フー……やっぱり、いてもたってもいられなくて……」
「君達の身を案じて言ってるの、わかってるよね!?」
「だーいじょうぶだって。過保護アワ」
お返しにアワの側頭部にもデコピンをかましてやると、彼は悶絶しながら涙目で三人を見上げた。
「美雷の読み通りだよ! また噴水公園に来てるだろうって!」
「美雷?」
昼の電話でそんなやりとりなどあっただろうか、と雷奈が記憶を探っていると、アワが「さっきだよ」と補足した。
「ボクとフーにメールがあった。情報管理局から取り急ぎの報告で、鏡像についてのある共通点が浮かんできたって。その連絡がてら、三人のことだから現場に戻って来てるんじゃないかって言うものだから、来てみれば……案の定じゃないか!」
「読まれとる……」
「あいつ、余計なことを……」
にこにこ笑顔でいつも見積もりの一段上をいく彼女は、頼もしくもある一方、敵に回すと厄介極まりない相手だった。
「それで……美雷の本題の件は何ね? 鏡像についてのある共通点って?」
「うん、情報管理局が聞き取りをしたひとたちは、みんな自分の鏡像に襲われたらしいんだけど……」
アワは三人の表情を確かめながら、その信じがたい現象を、できるだけ想像しやすいよう言葉を選んで言った。
「全員、先週の大雨の日の翌日から、身に覚えのない鏡を見かける体験をしていたんだ」
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