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物々しく告げたアワの言葉に、雷奈たちは顔を見合わせる。昨日の会話とアワの言葉を合わせると現れる最悪な予感に、表情に緊張を宿して。要は、あくまでも他人事という認識が我が事という自覚に変わった瞬間だった。
一方、昨日の会話を聞いていなかったアワは、目配せに込められたそんな含意には気づかず、自分の言葉をうまく理解しきれず仲間の表情を参照しているものととらえて、補足説明に入った。
「信じがたいと思うんだけど、ふとした瞬間に見覚えのない鏡を見かけて、でも目を離した直後にはそれを見失っているんだ。みんな、見間違いか自分以外の私物かと思って、あまり気にしていなかったようだけど……現象の正体はいまだ不明とはいえ、鏡という共通項といい、鏡像が現れる予兆としか思えないんだ。……その、それで……」
アワは言い淀んで、フーを見やった。フーも迷っていたようだが、決心したように口を開く。
「……驚かないで聞いてほしいのだけれど……実は私とアワも、同じ体験をしているの。特に気に留めていなかったから、誰に言うでもなかったけど……こうなると、私達の鏡像も現れる、もしくはすでに現れた可能性が高いわ」
人間たちにとって最も近しい猫であるアワとフーが渦中に巻き込まれたと知ったら、少なからず動揺するだろう。そう見越していたゆえに、打ち明け話には相応の覚悟を要した。
が、雷奈たちの反応は、アワとフーが思ったよりも希薄なものだった。黙っているが、「そっか」と言いたげな、そんな表情だ。
逆に戸惑ったアワが首をかしげる。
「……驚かないんだね?」
「驚かないで聞いてほしいっちゃけど」
アワの問いへの答え代わりに、雷奈が暴露する。
「私達三人も、現れては消える鏡を目撃しとります。ってことは、私達もそういうことったいね」
…………。
二匹の猫は、しばらく固まった後、互いに顔を合わせた。
そして頭が飛ぶほどの勢いで振り向き、「エエエエエェェ!?」と絶叫。
「驚かんでって言ったのに」
「驚くよぉ! 君たちまで巻き込まれてたなんて!?」
「そりゃ私らだって同じセリフだよ。何が原因なんだ、いったい」
「私、偽者だとしても、アワやフーや氷架璃たちの姿をした相手を攻撃するなんてイヤよ」
「私だってそうだよ、芽華実を傷つけるなんてできない」
「……私はよかと?」
「あんたは見た瞬間に一目散に逃げるわ。猫術で敵うわけないだろ」
「でも、そんな心が痛むような戦いにはならないんじゃないかなぁ」
アワが素朴に言い放った言葉に、氷架璃は明度百パーセントの白眼視を向けた。
「人でなしが……」
「確かに人じゃないけど! そうじゃなくって!」
「姿も中身も、似ているようで全く違う、ってことよね?」
フーの助け舟に、感涙とともに乗り込みながらアワはうなずく。
「君たちが会ったルシルの鏡像も、確かに顔や体格はそっくりだったけど、真っ白な髪に緑色の目をしていたじゃないか。それに、雰囲気や言葉遣いも似つかない。しっかりとした芯が通ってないというか……そういう意味では、本物の彼女とは正反対だよ」
「確かにそうっちゃね……」
となると、情緒面は抜きにして、単純な敵として渡り合えるかどうかである。
「ルシルかぁ……戦力まで正反対なら助かるけど、そうじゃなかったら、ちと厳しいな。雷奈はともかく、私じゃ勝てんわ」
「私もそうね……」
「ルシルの武器は剣術と水術のみならず、あの体術だ。何なら、他の二つより断然抜きんでてる」
「さすが二番隊隊長、山椒は小粒でもぴりりと辛いか……」
「誰が小粒だ」
背後から、凛々しいアルト。
飛び上がった三人の前に反射的に立ちはだかり、彼女らを守る姿勢に入るアワとフーは、胸キュンを覚えてもいい頼もしさだが、すわ敵の襲来かと胸ドキドキバクバクの三人にはキュンする余裕はない。
だが、杞憂だったようだ。そこに立っていたルシルは、執行着姿で相棒の白猫を連れた、夜の水面のような黒髪とラピスラズリの瞳をもつ少女だった。
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