62|学園追放

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 そうはいっても大人びた、照れる子供を微笑ましく見守る顔で、美雷は小首をかしげた。 「痛みはどう?」 「……マシです」 「よかった。でも、あとでちゃんと十番隊の子に見てもらうのよ。今のは応急処置でしかないんだから」 「……はい」  ふてくされたように言ってから、小さく付け足す。 「……ありがとう、ございました」 「いいえ、どういたしまして」  美雷は普段通り、周りに花が咲くような笑顔を見せた後、その目に少しだけ真剣な光をともした。 「それにしても、見えた? あの白いルシルちゃんのケガ」 「ああ」  その光景には、さすがに瞠目せざるを得なかった。 「血の代わりに……水が出てた」  川路は、脇腹と肩口、それにもものあたりにクナイを受け、倒れ込んだ。その傷口から流れ出ていたのは、無色透明の液体だったのだ。 「チエアリから血が出たかと思ったら、今度は水を出す偽者とか……どうなってんだよ」 「それらは別に考えましょう。今回の敵は、傷口から水を流す……彼らの正体の謎に関係あるかもしれないわね」  それには同意だ。頷くコウに、「あともう一つ」と美雷は指を振る。 「あの偽者のコウ君、右利きだったわね」  その言葉には、すぐには頷けなかった。戦闘を振り返ってみると、確かに右手右足を多用していた……ような気がするが、自信がない。のんきに花の番をしていた美雷とは違って、命のやり取りをしていた張本人は必死だったのだから、当然だ。 「さすがはね。利き手までご丁寧に反転してるなんて」 「だが、利き手が分かってたら、ちょっとは戦いやすくもなるか。ダークやチエアリにはないが、利き手があるってのは一種の弱点だからな」  彼は、宣戦布告をして帰っていった。必ず、再び相まみえることになる。  次こそは倒す。そのための手は、たとえ小さくても、あればあるほどいい。 「……そうだ、門番! あいつら、倒されてんじゃ……!」 「あら、それならもう医務室に運び込まれたみたいよ」  痛みが去って回り始めたコウの頭が、遅まきながら仲間の危機に思い至るが、美雷はピッチを手に穏やかにそう言った。十番隊か、総司令部から連絡が来ていたのだろう。 「さあ、今度はコウ君の番よ。いってらっしゃい」 「部下に次の指示出してからな。早乙女にこいつを燃やさせる用もあるし」  コウは壁際に投げ捨てていたオドリベトベトソウの茎をつかんで言ってから、ためらいがちに美雷を振り返った。 「どうしたの?」 「……あんたは」 「私?」 「……ケガしてませんか。流れ弾が当たったとか。あと、さっきこいつに噛まれたところは」  ひとのことを言えたたまではないが、美雷も、自分がケガをしていても進んで医務室には行かなさそうだ。  コウの言わんとしたことを解して、美雷はにっこりと笑みを深くした。 「大丈夫よ、ありがとう。心配してくれたのね」 「……別に」  心配、というほどではない。ただ気にかかった程度だ。  コウはふいと視線をそらした。  ……ちらっ、とだけ美雷に戻す。  その笑顔は、意味ありげにずっと濃いままだった。 「……な、なんだよ」 「私たち、少しは仲良くなれたようね」 「冗談抜かせ」  早く中に戻れ、と促すと、美雷は何が楽しいのか嬉しいのか、やはりニコニコしたまま歩き出した。コウも一度周囲を見回すと、中央隊舎の入り口までの道を共にする。  美雷の笑みがさらに華やぐのを覚悟で、彼女が壁側に来るように立ち位置を変えながら。
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