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門番の隊員が医務室に運び込まれてから少し経った頃、同じ場所に雷奈たちも到着していた。
カーテンに仕切られた一角で、十番隊の来卜に所見を聞く。
「検分した結果、骨も内臓も無事です。大きな衝撃が加わったことには間違いないので、しばらく安静にしていてもらいますが、心配はないでしょう」
「そっか。よかったな、ルシル」
「メルの見立て通りだったわね」
氷架璃と芽華実の言葉に、寝台に仰向けになったルシルと、その枕元に主体でちょんと座るメルが頷いた。
メルは意に介さないようだったが、ルシルは視線を動かし、ずっと黙ったままの雷奈に微笑みかけた。
「雷奈、気にするなよ」
「ばってん……」
「本物のコウ相手なら正しい作戦だったんだ。解放状態と封印状態の気配の違いを感じられないお前なら仕方なかったろう」
「うん……」
雷奈はうなずきながらも、うつむき加減で指の先をもじもじとこすり合わせている。
ルシルは少し考えてから、再度口を開いた。
「今回は相手が悪かっただけだ。お前の戦力の頼もしさは私達も知っている。希兵隊も、できれば今後もお前の力を借りたいだろうさ。……おっと、正統後継者の許可がなければ難しい話だったな」
負傷していてもなお、瑠璃色の慧眼は健在だ。雷奈の消沈のもう一つの理由がこの事態の解決への無力感だということを見抜いて、いたずらっぽく笑うルシルに、双体姿のアワとフーは「言ってくれる」と苦笑いした。
「……ありがと」
雷奈も、そこで少し笑顔を取り戻した。
とはいえ、今日はもう状況的にも時間的にも帰るのが吉だろう。
「アワ、フー。無事に送り届けてやってくれ」
「もちろんだよ」
「お大事にね、ルシル」
穏やかに見送るルシルに手を振って、薄ピンクのカーテンの仕切りから出る。そのまま、医務室を後にして、ぞろぞろと廊下を歩いた。
アワが後ろ手に頭をかく。
「あれ、雷奈たちにも協力させろってことだよねえ」
「暗にそう言ってるわね……」
フーも困ったように頬をかいた。
氷架璃と芽華実が、二人の前を行きながら口を挟む。
「希兵隊だってこの件は早く解決したいんだろ。だって開発部の部長様がピンチなんだから」
「木雪の疑いを晴らしてあげないと……」
三人は今も、木雪とユメの無実を信じている。二人とも、謙虚で低姿勢な少女だが、科学者としての自分に揺るがぬ矜持を持っているように見えた。そんな彼女らが、学院に禁じられた研究を隠し持ち続けるとは思えないのだ。
「けど、だったら今起きてるのは一体何だって……っと!?」
後頭部で手を組んで、天井を仰ぎ気味に歩いていた氷架璃は、先頭を歩く小さな体にぶつかってつんのめりかけた。
「あぶねっ、急に止まるなよ! けっつまずくところだっただろ!」
さりげなく低身長を揶揄しながら諫めた氷架璃。だが、前を向いたままの雷奈が無言で固まっているのを見て、さすがに冗談が過ぎたかと後悔する。
糾弾のまなざしが後ろから隣から突き刺さるのを感じながら、弁解。
「あー、雷奈、すまん、その……」
「……落とした」
背中越しに、憤然というより、呆然とした声がした。つながらない文脈に、氷架璃だけでなく一同が「ん?」と思考停止する。
そんな彼女らを振り返り、雷奈は蒼白な顔で訴えた。
「落としたったい……木雪にもらったセンサー……」
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