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どこから話そっか。
雷奈は温かいほうじ茶を喉に通すと、そう口を切った。パーティー用の炭酸飲料もあるが、冷えた体にはこれに限る。
ガオンとの死闘の後、種子島で何があったのか。行方不明の間、雷奈は何をしていたのか。そして何より、なぜこの人物がここにいるのか。
訊きたいことだらけの友人たちにおあずけを食らわせて、自分は余った一切れのケーキを食らっていた雷奈に、せっかちな氷架璃など、もういっそ雷奈の頭をかちわって中身をのぞいてやろうかとさえ思った。が、間を詰めて雷奈の隣に座った、新たに加わったその人物の前では、そんな暴挙もはばかられる。
とはいえ、がっついた雷奈はケーキ一切れなど瞬く間にぺろりと平らげてしまったので、本題に入るまでにそう時間はかからなかった。
食後の茶を飲みながら、頭の中で話の整理をしていた雷奈は、「よし」と一同を見回した。
「たぶん、時系列で話したほうが理解しやすかろうね。だとすると、最初に話すべきは、雷帆と姉貴のことになるったい」
「え、なんで? あんたの話は?」
「まあ聞いてよ」
光丘神社に来ていた雷帆と雷夢。彼女らは、氷架璃や芽華実たちが希兵隊とともに雷奈を探している間、神社で待機していた。その間に、雷奈が時空洞穴を通って種子島に渡ったことが判明。その報告を、神社を訪れた霊那と撫恋から受けた二人は、直後に神社を発った。次の日からの登校諸々の事情上、乗らなければ間に合わない飛行機があったのだ。そのため、二人は、現住所である宮崎に帰るべく空港に向かった――ことにした。
「姉貴たちは……宮崎には帰らんかった」
「東京に滞在していたの?」
「いや、飛行機には乗ったばい。ばってん、行先は宮崎やなか。二人は……種子島に来とったとよ」
当時、ガオンが引き起こした猛吹雪により、上空は到底飛行機が飛べる天候条件ではなかった。だが、それは雷奈たちがいた場所、西之表市辺りだけのことだ。雷帆と雷夢は、天候に異常のない中種子空港に着陸した。
種子島に飛んだ理由は明快だ。フィライン・エデンに詳しくなくとも、ガオンに立ち向かえる力などなくとも、種子島における土地勘なら誰にも負けない。例えば希兵隊たちが帰り道に困っていたり、日が暮れたりしてしまっても、風景さえ伝えてもらえれば迎えに行けるし、宿に泊められるよう手配もできる。何らかの形で力になれると思ったのだ。
そして、その二人の行動は、最高の形で結実する。
「姉貴たちのフライト中、私たちは親父と戦ってた。希兵隊の三人、アワとフー、そして氷架璃と芽華実も倒されちゃった後、私は今度こそ親父と決闘した。私は親父を道連れに、山の斜面を落ちていったとよ」
「山? 山だったのか、あそこ?」
「うん、吹雪で見えんかったろうけど、かなり見晴らしのいい展望公園だったとよ。私、一度行ったことがあるのを思い出したと」
「それで、なんか見覚えがある場所な気もする、って言ってたのね」
「で、そこの斜面を落ちていったと。死ぬだろ!?」
「そう。あのままだったら、本当に死んでた」
冗談めかして言ったその言葉を、冗談成分を抜いてそのまま返され、氷架璃は口をつぐんだ。氷架璃も、芽華実も、アワもフーも皆、その深い闇のような一つの概念に全てを塗りつぶされ、モノクロの一ヶ月を送ってきたのだ。今でこそ軽く口にできた言葉だが、ほんの数十分前まで、到底声にできないほど重く胸の底に沈んでいた単語だった。
そんな色あせた日常を、目の覚めるような赤と白の衣装で再び彩った雷奈。さすがに今は普段着に着替えた彼女は、その続きを口にした。
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