2人が本棚に入れています
本棚に追加
「意識を失った私が、再び目覚めたとき、私は種子島のとあるホテルのベッドに寝かされとった。たぶん、雪の上に落ちたからか、落下によるケガは大したことなくて、致命的だったのは低体温だけやったらしくて。やけん、温まったら復活したとよ」
「誰かが見つけてくれた……のか?」
「でも、そしたら普通、ホテルに預けるんじゃなくて救急車を呼ばないかい?」
「アワの言う通りったい。ばってん、私を見つけてくれた人は、救急車を呼べなかった」
フーが首を傾げ、あっと声を上げて背を伸ばした。猫姿だったならば、しっぽがぴんと立っていたことだろう。
「携帯電話を持っていなかったとか?」
「まあ、携帯電話ももちろん持ってなかった。ばってん……というか、だからこそ、私のスマホば使ったと。私のスマホは、もし私がクロガネがやろうとしたみたいに死体も見つからんような殺され方したとき、私が確かにそこにいたってすぐわかるように、あらかじめロックを解除してあったとよ」
「他人のスマホを使うのも気が引けるけど……使えるには使えたなら、救急車は呼べたんじゃないのかい?」
「いや、それでも呼べんかった。そりゃそうっちゃろ。だって通報したのは――」
雷奈の視線が動く。左に。彼女の隣に座る人物に。
それだけで、一同は全てを理解した。
そうだ。確かに、彼女に救急車は呼べない。呼ぶことができたとして、もしそうしたならば、少し面倒なことになる。
「その代わり、スマホに登録されとる連絡先を見て……一番助けてくれそうな人物に連絡してくれた。そして、連絡を受けたその人物は、まさに種子島に到着したばかりで、すぐにホテルを手配し、遅れて駆けつけてくれて、宿泊費も全部工面してくれた」
連絡を受けた人物――雷夢は、電話で雷奈たちのいる場所に一番近いホテルの一室を押さえ、タクシーも手配し、「先に入ってて、後で払う!」と妹を引き連れて自身も直行した。
さすがは長女だ。そして、その長女をずっとそばで見守ってきたからこそ、何とかしてくれると、一番助けになる可能性の高い人物だと、彼女は信じたのだ。
「ひとまず、いったんここで私の話は区切ろうかな。私も気を失ってたわけで、大体は伝聞やけん、その間のこととかは、一部始終を知っとるご本人に直接どうぞ」
途中から、語り手の雷奈に視線をやるのも忘れて、食い入るように件の人物を見つめていた氷架璃や芽華実たちは、さっと居住まいを正した。
携帯電話もお金も持ち合わせているはずがなくて、救急隊員に名乗れない立場で、それでも全幅の信頼を寄せる雷夢に助けを求めて、雷奈を救ってくれたその人物は、ここへ来た時からずっと、包容力のある上品な笑顔を浮かべている。
そんな彼女に、四人は机の天板に額をこすりつけるようにして頭を下げた。
「この度は、雷奈を助けてくれてありがとうございました」
「いいえ。母として当然の務めです。こちらこそ、雷奈ちゃんと……そして雷華ちゃんが、いつもお世話になっています」
言って、彼女は――三日月雷志は、ゆっくりと会釈した。
最初のコメントを投稿しよう!