51|降臨コーリング

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*** 「その後、雷奈ちゃんからは、他にもたくさんのことを教えてもらったわ。氷架璃ちゃんと芽華実ちゃんのこと、そしてアワ君とフーちゃん、フィライン・エデンとの関わりも。だけど、やっぱり……私が今、再びここにいる理由については、あの世界が関係しているのだろうということ以外、何もわからない」  清楚な白いワンピースの胸元に手を当てて、雷志はそう言った。透けるように白い肌、娘達に輪をかけて明るい髪色、長女に受け継がれた柔和に垂れたまなじり。その姿は、雷奈の部屋に飾ってある家族写真の中の彼女と何ら変わらない。亡くなった当時の形で蘇ったのだろう。三十代前半とのことだが、顔の輪郭や骨格、飾らずに背中に流した長い髪に、氷架璃より低い身長、服の趣味などが相まって、ずいぶん若く見える。 「ちなみに、二週間くらいで雷奈ちゃんは万全の体調になったんだけど……」 「氷架璃たちには姿を見せて初めて『復活!』って伝えたかったけん、わざと連絡しなかったと。あ、美雷にだけは無事ば伝えたばい。やけん、美雷と、あと情報管理局と学院のトップのひとだけが私の生存ば知っとった状態?」 「お母様の前じゃなかったらぶん殴ってるぞ、あんた……」 「私達、本当に暗い初冬を過ごしたんだから……」 「ごめんごめん。正直、もっと早く光丘に戻ってきたかったっちゃけど、家族会議したり、それで母さんも一緒に上京することが決まったけん、新居探したり、必要なもの買ったり、いろいろ時間かかったとよ。一番大変やったのはオフショルミニスカのサンタコス探すことやったけど」 「この際ンなもんどうでもいいわ!」  怒鳴る氷架璃をジト目で見ながら、アワが「君が言い出したくせに……」と口の中で呟いたのには、フーしか気づいていない。 「あと、光丘の町を案内して回ったりとかね。ここで暮らす以上は必要やけん」 「何がどうなってお母様が生き返ったのか分からないけれど……確かに、種子島で過ごしていたら、知り合いに会って大変なことになるかもしれないものね」 「そうだよな。ってか、話戻るけど、そもそも何で生き返ったんだ?」 「雷奈、何か心当たりはある?」  友人達の注目を浴びて、雷奈はしばらく黙った後、これしかないというように答えた。 「私……意識がなくなる直前、誰かがそばにいた気がして」 「え、誰!? ガオンしかいなくない!?」 「うん、私も一瞬そう思ったっちゃけど、親父にしては、なんていうか……敵意がなくて」  自身の言葉に迷いながらも、雷奈はアワに答える。 「それで、もしかして神様かなって思って、私も、つい『母さんに会いたい』ってお願いして……」 「そうしたら、本当に雷志さんが生き返った……ってこと?」 「うん……そうなるったいね」  ぽかんとする氷架璃の顔には「そうはならねえよ」と書いてあり、同じくぽかんとする芽華実の顔には何も書かれていなかった。驚きのあまり頭が真っ白になってしまったようである。  そんな人間二人とは対照的に、猫二人は至極真面目な顔をして言った。 「人間界の神って、確か存在証明はされてないんじゃなかった?」 「四つくらい証明が唱えられていたのは、あれは違ったかしら」 「学説に留まっただけで証明終了まではいってなかったはず……?」 「まさかフィライン・エデンの君臨者の思し召しじゃないでしょうしね……」  パートナーたちを蚊帳の外に、額を寄せ合ったアワとフーの議論はなおも続く。 「蘇生というより存在の再生だとしたら、時空学の領域かな?」 「源子との契約なら時空学だけれど、源子の操作による純猫術の延長なら猫力学だわ」 「でも、どちらにしろ、術者はいったい誰……」 「だああああっ! もういいだろ!」  そんな二人の間に、耐えきれなくなった氷架璃が割って入る。突然の大声に、アワとフーはたまげた様子だったが、氷架璃は気にすることなく啖呵を切った。 「そんな難しい話は後だ、後! 今やることが何か分からないのか!?」 「え……えっと……?」  目をしばたたかせる二人に、業を煮やした氷架璃は両手を広げて叫ぶ。 「パーティーだよ、パーティー! 他にあるか!? 雷奈が生きて戻ってきて! おまけに雷志さんが生き返った! こんなめでたいことあるか!? 祝う以外ないだろ!」 「めでたいはめでたいけど……何するの? もう食べるもの食べたじゃん」 「うるさい! アワ、菓子と飲み物買ってこい! 仕切り直しだ!」  なんでボク? とげんなりした顔をしたアワだが、結局いつものように折れて重い腰を上げた。 「アワ、私も行くわ」 「ありがとう、フー……」 「そこ、のろけない!」 「のろけてない!」  やいのやいのと言いながら二人を送り出した氷架璃は、腰に手を当てて一仕事終えた風情だ。  そんな彼女に、雷奈が小さく話しかける。
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