51|降臨コーリング

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***  かくして、慣れ親しんだ日常に戻ってきた雷奈は、今日もいつものように友人たちと帰宅中であった。  が、今日に限っては、この後、氷架璃と芽華実とともに一つのアポイントメントを予定していた。 「美雷が来るのは四時やったよね?」 「ええ。今日はホームルームも短かったし、雷華が雷志さんを迎えに行って帰ってくるほうが早いくらいね」  雷奈が帰還してから約四ヶ月。その後、美雷に会うのは今日が初めてなのだ。  ガオンのこと、そして雷志のことも、美雷に聞けばわかるかもしれないと思っていたのだが、なかなか会えずにいたのだった。  ガオンはその後出現することはなく、一区切りつけられた心地だったが、雷志復活の謎はずっと少女たちの頭に引っ掛かり続けていた。なので、今日、美雷の口から答えが聞けるかもしれないと思うと、四時の会合が待ちきれない。  その雷志も、光丘に新居を構えて四ヶ月になるということだが、不思議なほど生前と同じように過ごせているようだ。この町では、雷奈たちの叔母として通すつもりらしい。彼女も、今日は自身の謎が明かされるかもしれないことを心待ちにしていた。  ちょうどT字路で、人通りが絶えた。それを見計らって、アワとフーの姿がすうっと溶けて縮む。瞬く間に、アワは水色の、フーは白色の毛並みの猫の姿へと戻った。 「じゃ、ボク達は帰るから、美雷や雷志さんによろしくね」 「あーはいはい。伝えとくわ」 「また明日ね、アワ、フー」  三人は手を振って、ワープフープへ向かう二人を見送ると、再び歩き出した。行先は会合場所にして雷奈の居候の地、光丘神社だ。  氷架璃が鞄ごと両手を頭の後ろに回してぼやく。 「しっかし、最近ホント付き合い悪いなぁ、あの二人」 「帰ってすぐに術の修業しとるっちゃろ?」 「修行ってなんだよ。少年マンガかよ」  鼻で笑う氷架璃に、複雑そうな顔をした芽華実が、ささやくように言った。 「……それくらい、私たちをガオンと戦わせてしまったのが悔しかったのよ」  雷奈が戻ってきて諸々が落ち着いたころ。二人は、「今回の件を重く受け止めて、しばらく猫術の修業をする」と言い出し、三学期からは放課後の付き合いを断るようになった。それがループして至るこの四月下旬まで続いているというわけである。  どこでどんな修行をしているのか気になる三人だが、両者とも何も教えてくれなかった。案外、家でやっているのかもしれないが、思えば二人の実家は場所すら知らない。 「アワもフーも、精いっぱいやってくれたわけやし、気にせんでいいのにね。アワは希兵隊でもないのに親父に挑んでいったし、フーは医療関係者でもないのに私を回復させてくれたし、見直したったい」 「私もそう思うけど……正統後継者としてのプライドがあるんじゃないかしらね……」  芽華実がどこか気の毒そうに言った傍らで、氷架璃が「あ」と人差し指を立てた。 「修行といえばさ、ルシルたちも今、躍起になってるんだろ?」  ニヤニヤした表情は、いたずらを思いついた子供の顔。芽華実が苦虫を噛み潰したように唇を横に引く。 「……氷架璃ったら、まさか」 「チャチャ入れに行かない?」 「イイ趣味しとるねー」  芽華実の斜め後ろで、雷奈も皮肉気味に苦言を呈する。  ルシル達とは、美雷同様、雷奈が生還してからは会っていない。とはいえ、事の経緯は美雷からすでに聞き及んでいるようだ。メールの返信によると、どうやら勤務外時間を返上して稽古に励んでいるらしい。  またルシルの悪いワーカホリック癖が……と思いきや、コウと霞冴も仲間入りしていた。仲良し三人組そろって、人間たちには目もくれず、ストイックな向上心の奴隷となってしまったわけだ。  ただ、彼らがアワやフーと異なるのは、居場所が分かっている点である。希兵隊本部には、きちんと道場や運動場が整備されているのだ。雷奈たちのいざ知らぬ山へこもりに出かける由もあるまい。  ゆえに、会いに行こうと思えば、こちらから会いに行けるのである。 「な、今日なら『美雷を迎えに来たついでに〜』って感じでいけるんじゃね?」 「私たちのことを思って頑張ってくれてるのよ。からかっちゃダメよ」 「ばってん、根詰め過ぎてもいかんしね。私達が行ったら、立ち話でもしてちょっと息抜きできんかね?」 「確かに……遮二無二し過ぎるのはよくないわね……」  一番たしなめる姿勢を見せていた芽華実もなびいてきたので、氷架璃は「決まり!」と足先を方向転換させた。雷奈も楽しげにそれに続く。 「なんだかんだで、もう三か月ぶりだな!」 「そうっちゃね。それじゃ、久々に行くったい、フィライン・エデン!」
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