これからもよろしく

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 フリーマーケットが終わり、疲れ果てて家に戻ると何かええ匂いがしとった。テーブルの上には普段あんまり見んもんが並んでる。チーズフォンデュって言うらしい。そして、こっちは大量のアサリ。  父ちゃんは 「えー、向こうで食べた食事や。フランス料理やないって言うのは、まあ言わんといて。それにムール貝が手に入らんかったからな、アサリの酒蒸しになった」  とゴニョゴニョ言っとった。それから、 「ごめん。その、お土産買ってまうのは、みんなのこと考えてまうからや。だからつい、みんなのこと考えて…… 一緒にいたらなーって、そんなことを考えて」  と続けて言った。そして最後に 「いつか絵が売れたら。みんなを連れてくから。これからも、その、……よろしく」って言ったんや。  母ちゃんは、特に何も言わんかったけど、アサリの酒蒸しを食べて。 「合格!」って言って、ちょっといつもと違う夕食が始まった。  良かった。今日は楽しい夕食や。まあ、こんな凸凹がいろいろ合わさったのが、うちの形なんやろな。  さて、それから次の日。  わいは、例の木彫りの人形をアトリエに戻した。だって、わいの棚に置くのはちょっとね。不気味やから、ハハ。  夕日で真っ赤に染まるアトリエで棚にそっと戻す。  ひげの生えた傾いたおっちゃん、同じように変な形に傾いた女の人。二人のアンバランスがバランスを保ち、二人の境目は消え溶けて重なり、まるで一つの黒光する木彫りの人形になった。  良かったな。でも不気味なんは相変わらずやから急いで帰ろう、と思った時。 「ア、リ……ガ、トナ」  という低い静かな声がどこからともなく聞こえた気がした。ハッと振り返ると、夕日を反射して木彫りの人形に目がギロリと輝いた気がした。そして微かに声が聞こえたんや。 「コ、レ、カ、ラ、モ、ヨ、ロ、シ、ク」  わいは背筋にゾゾゾゾゾゾっとするもんを感じ、 「はいーー!!!」  と言って部屋を飛び出した。  あー、なんて恐ろしいーーー!!  という小学2年生の時の不思議体験でした。  あ、それから最後にちょと付け足すと、あれから父ちゃんの絵の片隅に、父ちゃんと母ちゃんが出てくるのをわいは知っている。ちょこっと片隅に、アンバランスの二人が楽しそうに。ワインなんか掲げてな、楽しそうに。 Fin ※このお話はフィクションです。
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