これからもよろしく

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 その日の晩、わいは夢を見た。  あの不気味な人形がジーと見つめている。わい怖かったけど動けなくて…… そしたらな、父ちゃんがその人形サッと持って歩いていったんや。どんどん向こうに歩いていったんや。川の向こうに、海の向こうに、だんだん小さなって…… まるであの髭のおじさんの様に、バランス悪く、少し傾いて、ひとりポツンと、消えて行くように。 「父ちゃーーーーん!」    次の日の朝、フリーマーケット本当はおもろいはずやのに、わいの気は進まへんかった。うちは車無いから、母ちゃんの友達の車に乗ってフリーマーケット会場に向かう。父ちゃんはこんかった。  天気は良くて、気持ちのいい日やったのに、わいの心は弾まんへん。それでも物を並べて行くと、ちょっとお店屋さんの様になってきて、少しだけ楽しくなってきた。母ちゃんとおばちゃんは、畳んだ子供服などを綺麗に並べて行く。  綺麗やけど、……なんかおもんないな。  わいは、父ちゃんの「お土産」を並べ始めた。魔法のランプに、派手な仮面、壊れた小さな蓄音機っていうもんに、使い方のわからんカメラ。いろいろ並べて、最後にあの不気味な木彫りの置物を置いた。黒光する髭の生えたおっちゃんの顔と体のアンバランス差が存在感を放つ。 「よし」  なんかガチャガチャしてるけど楽しなってきた。父ちゃんが怒って出て行く前につけた値札を見る。1000円や。まだ2年生やからピンとこんかったけど、1000円あれば、うまい棒がいっぱい食べれることはわかる。  よし、父ちゃんに代わって売るでー!  そして、フリーマーケットが始まったんや。  開始早々、ドッと人がやってきた。なんか熱心にいろいろ見ていくわ。わいらの前のガラクタもジロジロ見て行く人がおったし期待した。  でも、売れんかったんや。ひとつも。 「高い高い百円にしとき」  母ちゃんが横から口を挟むけど、わい値段変えたなかった。  だって、父ちゃんのつけた値段やし。
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