月の光

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 アサヒの演奏のあとで、藍の演奏がはじまった。  曲は、ドビッシーの月の光だ。変ニ長調のこの曲は、本来はピアノの独奏曲なのだけど、最近は様々な楽器用に編曲されている。 藍はこの曲をフルートで演奏する。僕は藍のフルートの音色で奏でられるこの曲が大好きだ。  サナの優しい音の導きによって、藍は第一音を夜空に優しく浮かぶ月の煌めきのように奏でて、次には夕空の風の揺らめきが頬を撫でるように囁く。それを受けて、ピアノは夏の暑さをそっと拭ってくれるように、まるで小川のせせらぎのように静かに流れる。  ふと見上げると、先ほどよりも夜空の高いところにある、はっきりとした月の光が、建物も、向こうに見える森も、全てを優しく包み込んでいる。  後半の高音域で、唇に力が入ってしまったのか、藍の音色はやや掠れていた。でも、その音色こそが僕には愛おしく感じられた。  僕は、またしても感動して、ついつい涙を流してしまっていた。
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