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サナは、黒色のピアノカバーを半分ほど捲り、それから古びたグランドピアノの鍵盤の蓋を開けて、譜面をおいて、曲をさらい始めていた。
アサヒが来るまでに、ある程度はさらっておきたいようだ。
少しだけ古びているけれど、でもしっかりと使い込まれた心地よい音がピアノからこぼれはじめる。
ふいに、
「ねぇ、アサヒはブラスバンドに入らないのかな?」
藍がそう尋ねると、
「う~ん。
嫌いじゃないのだろうけど、アサヒは基本的には個人プレイが好きだからね。」
サナは、ピアノからキレイな音を溢れさせながら、アサヒに関しては曖昧とも取れる返事が返ってきた。
サナ自身も、ブラスバンドよりもピアノに向かっている事の方が好きなようだ。
「で、そっちはどうなのよ?」
そう尋ねられて、
「私は、ただただフルートの音色を楽しみたいんだよね」
そう言うと、
「いや、そっちじゃなくて、隣の男子とってことだよ」
「え?瑛とってこと?
なんて言うか、そんな風に意識したこともないよ。
側にいて当然。
親友みたいな?
トキメキとかそんなのはないね」
と答える藍だった。
そっか……トキメキとかもないんだ。
僕はこんなにも藍の事が気になるのに。
「なんだそれ!
親友っていうかさ、ベテラン夫婦かよっ!」
そう言いながら、ピアノの音色をはさんで笑いあっている二人が眩しい。
夫婦か……。
本当にそうなれたらいいのに。
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