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月の光
朝はまだ涼しかったのに、今は頭の上にある太陽は、急激にうだるような暑さを伴ってアスファルトをゆらゆらと照らしている。
藍は、体育館横の自動販売機にコインを入れて、透明感が一番高そうな、でもなんてことない水のボタンを押した。
自動販売機の中をすり抜けて、ガシャッという音とともに落下してきたペットボトルを取り上げて、水色のキャップをキュッとひねって、透明なそれを一気に体内に取り込んでいた。
そうして、
「暑いね~。
ちゃんと水分摂らないと、やられちゃうね~。」
そう言って、半分以下になったペットボトルの中身を日の光に照らして、まるでその中にいるクラゲを探しているような表情を浮かべていた。
そしてふと、
「瑛、飲む?」
と、僕の返事を待たずに、ペットボトルを差し出す藍だった。
それから、藍は、セーラー服のリボンを手でバサバサさせて、胸元の熱を強制冷却させようとしていた。
男子と一緒にいる時の女子は、そんなことはしないんじゃないだろうか。
そんなことを思っていると、かしの木に留まっているセミが、急にジワジワと鳴き始めていた。まるで僕の心のドキドキを代弁しているようだ。
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