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表情観察感情読取機『Refa(リーファ))』
「入江、ノートサンキュー。やっぱ、天才は頼りになるわ。また宿題が出たら貸してね」
そう言って、クラスメイトである星野 愛羅(ほしの あいら)は俺にノートを渡した。サンキューと言いながらも、彼女の笑みから読み取れる彼女の感情は『無関心』だった。俺からノートを借りるのは当たり前だと思っているみたいだ。
星野は自分の友達のところへ行くと彼女たちの会話に混ざる。その時の星野から読み取れる感情は『幸福』。俺にお礼を言った時に見せた笑みと今の笑みは雲泥の差だった。
雲泥の差と言いつつも、スマートコンタクトレンズにインストールされたアプリ『Refa(リーファ)』を通してでしか分からない。裸眼の状態で渡されていたら、喜んでいると思って俺も嬉しくなっていたことだろう。
まあ別に、喜んでいようがいまいが俺にとってはどうでもいい。彼女にノートを貸したからって俺の成績に響くわけではないのだから。それに、喜んでいなかったからと言って貸さないと星野は不満を抱く。貸してゼロか、貸さなくてマイナスかと言われれば、貸した方がお得であろう。
あいつには、関心を持たれない方が今後の人生においてはプラスなる。あいつだけじゃない。このクラスの大半に該当する話だ。関心を持たれたくない人間には、都合の良い存在でいつつ、いなくなったら忘れられるくらいがちょうど良い。
そういえば、あいつの名前、『あいら』じゃなくて『てぃあら』だったか。全くもって、覚えにくい名前だ。
「入江くん。これもついでに渡しておくね」
星野の方を見ていると不意に手に持っていたノートの重量が増す。見ると俺のノート上に『学級日誌』が重ねられていた。俺は日誌を置いた少女の顔を覗く。
黒髪のロングヘア、先天的な鋭い目つきは近寄りがたい雰囲気を醸し出している。事実、彼女の周りに寄ってくる生徒は皆無だ。
「何で俺に渡すんだよ。相川が書けば良いだろう?」
「前回私は『学級日誌記述』で入江くんは『黒板消し』だった。だから、今回は逆にするのが定石かと思ったのだけど何か間違っているかしら?」
相川に言われ、俺は教室前の黒板に視線を移す。前の授業で先生の書いた板書は綺麗さっぱり消えていた。これでは、違うと言ってももう手遅れだ。
「わかった。学級日誌記述でいいよ。ただ、担当決めは先に報告してくれ。俺が『黒板消し』大好きで『黒板消し』やりたいって言ったらどうするんだよ?」
「……それもそうね。ごめんなさい。私が悪かった」
「いや、謝ることじゃないけど……次からは分担決めはやる前に先に相談してくれ」
「わかったわ。じゃあ、ごめんだけど、学級日誌よろしくね」
「了解」
俺はペンを持つと学級日誌の未記載の部分に日付と前授業の科目・授業内容を明記した。ついでに今日一日の科目も記述し、一日の感想も記載しておく。
できることは早めに終わらせる。それが俺のやり方だ。
書き終えるとチラッと隣に目をやる。隣の席には、先ほど学級日誌を渡してくれた相川の姿がある。彼女は小説を読んでいた。図書室での借り物のためかカバーはない。ジャンルは恋愛だった。
彼女の表情から読み取れる感情は終始『無関心』だった。それは俺と話す間もずっと同じ。それどころか、俺が『Refa』を使い始めてから感情はずっと『無関心』のままだ。一度も別の感情になったところを見たことがない。
クラスの大半が示す無関心には興味がない。
だが、彼女が見せる無関心だけにはずっと興味があった。
俺は相川 春海(あいかわ はるみ)が感情を灯す瞬間を見てみたかった。
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