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「私は、ってどういうことだ」
「私はあなたにとって、誰のレプリカ?」
最初はぽかんとしていた彼の表情が、ゆっくりと真顔に戻ってゆく。
「さっき鏡見てるときに気づいたんだよ。だんだん私、あなたの元カノたちに似てきたなーって思えてきてどうしようもなくなっちゃったんだ。これは偶然? それとも意図的? あなたが好きなのは『私』なの、それとも『元カノみたいな私』なの、どっち」
ああ言っちまった、と思ったときには既に遅かった。彼は眉をひそめながら、顎に手をやって何かを考えている。水を差すどころじゃなくて、もはや大波で全て押し流したに近い。
そして間髪入れず、なんでこんなこと言っちゃったんだろう、という後悔が返す刀で私を斬りつけた。あのまま、だまって可愛げのある振る舞いをしていたなら、私はどんな鑑定士も見抜けないほど完璧なレプリカになれたかもしれないのに。
私はチョロいし、きっとそれはそれで、本物よりもはるかに本物面をして得意げになっていただろうし、満足していたに違いない。どうせ本物になんて、なれっこないのに。
でも、いっそ本物が最初から存在しなければ、私こそが唯一無二の本物になれるんじゃ――。
危険な思想に傾きかけた私を、彼の乾いた咳払いが現実に引き戻した。
「まあ、見た目の面では確かに、わたくしの好みは黒髪でシュッとしたスタイルの女性でございますから?」
「なんなの、その総理大臣みたいな口調」
思わずソファから腰が浮きそうになった私を、まあ聞け、と言いながら彼がもう一度座面に落ち着かせた。
「それに、見た目の好みが、なに?」
「いや、そりゃあ見た目は似通ってくるよなあと。そういう意味ではリンも、付き合いたての頃は俺によく『そのキノコみたいな髪型やめろ』『パーカーよりジャケットのほうが似合う』『もっと太れ』って言ってたじゃん」
「言ってた」
「リンは、なんでそうやって言ってたんだ?」
「なんでって……そのほうが似合うなって思ったから」
「うん。それじゃあ過去に付き合った彼氏は、どんな格好してた?」
「あー……」
そういえば私は昔から、落ち着きのある大人な男性が好きだった。できれば彼もそうあってくれたらなあと願った。
でも、そこまではっきりとああだこうだ口出しをしていたなんて自覚は残っていなかった。もっとも、彼は相当意訳していると思う。私はもっと柔らかく遠回しに言ったはずだ。こういう感じのほうが似合うんじゃないかなあ、みたいに。
いや、ちょっと待って。
それは私に対する彼も同じだったじゃないか。
そして私が過去に付き合ってきた男たちはみんな、中身こそ違えど、今の彼によく似ている。
そうやって、中身、というところに行き着いた瞬間、私はひとつの答えを指に絡め取るに至った。
つまりは――。
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