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「まあ、自分の好みの恋人の姿っていうのは、相手に求めちゃうよな。よっぽどのことがなければ変わらないもん、そういう好みって」 「……うん」  もはや相槌を打つことすら恥ずかしかった。今の私には、彼がこのあと、なんて言葉を並べてくるかが手に取るように分かってしまう。  聴きたくないけど、聴かないわけにはいかない。 「でもさ、人格というか人柄というか、そういうのは人それぞれ違うだろ。その意味で言えば、リンはこれまで俺が付き合ったことのないタイプの女の子だぞ」 「そうなの?」 「ほら、俺はわりと無鉄砲で大雑把だし、何かあったらすぐに周囲を見失いがちになるから」 「『わりと』っていうか、あなたは9割くらいそれだよね」  うるせえよ、と彼が久々に笑ってくれた。 「これまでは自分と同じような人とばかり付き合ってきたから、リンみたいにいつも計画的で冷静な彼女は初めてだな」 「そこに『無愛想』っていうのは入らないの?」 「他の人には知らんけど、リン、俺には結構愛想あるじゃん」  うるさい、と今度は私がそっぽを向いた。すると「だからなんとなく、わかったんだよ」と、彼がそのまま言葉を続ける。 「わかったって、何が」 「俺は自分と似てる人より、自分にないものを持っている人に惹かれるタイプなんだなーって、やっと気づいた。そういう意味で、リンは他の人のレプリカなんかじゃなくて、俺にとっては文句なしにオリジナルだと思ってるんだけど?」  ああ、そうなんですね。  なんだかすごく悔しいけど、私の中で言葉が響きすぎてさっきから耳鳴りがひどいんですが、責任取ってくれないですかね。  いま考えてみれば、私だって過去に付き合ってきた男はだいたい同じ外見だったけど、隣で並んで同じ速度で歩くんじゃなく、手を引いて走ってくれるような人って、あなたが初めてなんですけどね。  それに、今みたいな歯が浮くような台詞をためらいもなく簡単に言えてしまう男も、あなたが初めてなんですよね。  ばっかだねえ……と嗤うもう一人の自分の声をかき消すことができるほどに、好きだって言いたいと思えた初めての相手があなたなんですけどね。    恋なんて結局はそんなもんなのかもしれない。今回こそは本物、真実、正義。いずれは愛になり得るもの。いつか誰かと事実になるまで、呆気なくひっくり返ってしまうことの繰り返し。  その意味で私は今日、やっと机の上を綺麗に整頓できた段階にいるのだ。この恋が本物なのか否かを導き出せるのは、まだ先の話。  まずは私が、これからも彼にとっての「本物」であり続けることが必要だ。  レプリカは本物と遜色ない領域まで辿り着けたとしても、どうあがいたって本物を超えることなどできないのだから。  彼が脇目も振らずに私だけを見つめてくれるために、何が必要で、何をすればよいのか。  それを冷静に見極めて実行に移すことが、私にならきっとできるはずだ。  決意を新たにしつつ、静かに呟いた。 「ねえ」 「ん?」 「私こそが、今のあなたにとって本物なんだよね」 「そうだよ」 「じゃあ、そんな私に、いま何か望むことはある?」 「んー。やっぱり二人で同じデザインのツアーTシャツ買ったらダメですかね。リンさん」  去年のツアーのとき、恥ずかしいからペアルックはやめておこう、と二人とも違うデザインのTシャツを買ったのは私だった。今日もお互い、それに袖を通している。  あの時だって、自分なりに冷静な結論を導いたはずだった。  でも、同時に心の隅っこに押しやった気持ちの中には、彼との関係をさらに深めるきっかけになり得るものがあったことに気づいた。  つまりは私が願っていることを実現させるために必要な、小さな積み重ねの要素は、いまここに揃っているのではないだろうか。  心の中のコップが、さっきとは違う水で満たされてゆく。  少しだけ間をおいて、こたえた。 「一緒でいいじゃん」  きっと冷静さは欠いていない、はずだ。 /*end*/
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