対照的な余りに対照的な二人

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 少し時間をおいて偶然、同じ漫画喫茶に訪れた二人。お互い気づいたらしくちらちら見ては気まずそうにしている。やがて曾てのいじめっ子の強味が優ってか、石川が席を外して意地悪そうににたにたしながら寄ってきた。 「よう、細川じゃないか」  やっぱり石川かと思いつつコミック本から視線を上げる細川。 「久しぶりだな」高校三年の時に同級生だった二人は約三年ぶりに会ったのである。「座ってもいいか」  細川が渋々頷くと、石川は向かいの席に腰掛けた。 「お前の顔は随分久しぶりに見るが、その間お前は俺を何回も見たんじゃないのか、映像で」石川は今や売れっ子AV男優なのだ。「なあ、どうなんだよ」と言われて細川は重い口を開いた。 「よく見てるよ」  その皮肉っぽい口調が可笑しかったと見えて石川は大笑いした。元々厚顔無恥な彼はAV男優の引け目は微塵もなくなっていたのだ。 「そうか、じゃあ俺を羨ましく思うこともあるんじゃないか」  AV女優の陰部を思い切りグリグリやる石川、いじめ宛らに…本当は痛いのに無理矢理、気持ちいいとAV女優に言わせる彼が見るからにいじめっ子気質を感じさせるのだが、そんな映像が頭に浮かんだ細川は、唯々嫌な感じがした。 「なあ、どうなんだ」とまた念を押された細川は、人間の屑同士の、そんなもん、羨ましいもんかと思って黙っていた。 「なあ、そんじょそこらの女とは訳が違うんだぞ。むちゃくちゃスタイルよくて、むちゃくちゃルックスのいい女とやれるんだぜ、而も複数と、俺はかれこれ五百人近くとやったかな、すげえだろ」  女に関して呉下の阿蒙である細川は仕方なく頷く。その気色を見て毒づいた石川はにたつきながら言った。 「それに引き替え、君はまだ童貞だったりして…」  細川はどきんとして思わず赤面した。 「ハッハッハ!冗談半分に言ったのに図星かよ」格好のカモだと思った石川は追い討ちをかけるように言った。「お前、仕事何してるんだ?」 「ぼ、僕は今流行りのあれだよ」 「ってことは何か、また俺にお前の恥ずかしいこと言わせる気か」 「えっ」 「だから非正規雇用で低賃金で扱き使われてさ、序でに言えば、ピンハネとか中抜きされてんだろう」 「ピンポーン!」 「何がピンポーンだよ。開き直っちまいやがった。ハッハッハ!それじゃあ女がついてこない訳だ。ハッハッハ!しかし、今時はお前みたいに経済力がなくてAVだけで満足する所為で女と経験できない奴が珍しくないんだってな。だから婚姻率も出生率もガタ落ちで少子高齢化が進むんだってよ。ま、俺も色んな美女とガンガンやれるからって子供作る訳じゃないから偉そうなこと言えないんだけど俺の場合、ギャラと快楽目的だけだから別にいいんだ。ハッハッハ!」  石川がいい思いをし、自分が悪い思いをする、この社会を間違ってると細川は呪い、精神的に酷く痛めつけられた運命的な悪夢の再会を呪詛する仕儀と相成った。  
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