カーシオンと怪物

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カーシオンと怪物

 その昔、まだ神と人の距離が近かった頃の話だ。フェリアテのそばに、ヴァシンという国があった。女神・ミョニルと恋に落ちた青年・ユヴェイが起こした国だ。  しかしこのミョニル、実は女神ではなく、大食らいの怪物であった。ユヴェイの妻として人の世に潜り込んだミョニルは、ヴァシンの国を丸ごと平らげてしまった。ユヴェイはもちろん、老人から赤子まで、一人残らずミョニルの腹に収まった。  ヴァシンの国を滅ぼしても、ミョニルの腹はまだ満たされない。空きっ腹を抱えたミョニルは、隣国であるフェリアテも平らげようとした。  これを退けフェリアテを守ったのが、英雄にして賢帝と有名なカーシオンである。  彼にミョニルを退ける力を与えたのは、知恵の女神・ジガミだ。彼女はカーシオンに、ミョニルは不老不死であると教え、国に入らせない方法を教えた。  ジガミとカーシオンによって、ミョニルはフェリアテに入ることができなかった。それでも諦めず、どうにかフェリアテの人間を食べようと手を伸ばすミョニルを、カーシオンは剣で切りつけた。この切り落とした指が、今もフェリアテの国境に転がっている。指を切られた痛みでこぼしたミョニルの涙は、国境近くの湖になった。  指を切られたミョニルは、カーシオンに人食いを禁じられた。不老不死のミョニルは、これ以上の痛みを味わわないためにうなずいた。多くの命を奪った罰として、罪を償い終えるまでこの大地をさまよい歩くことになった。何でも、とある花を探せと命じられたらしい。その花がどんな花なのか、なぜ花なのかは、もう誰も知らない。  わかっているのは、今もまだミョニルはこの世をさまよっていることだけだ。
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