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――ううむ、怪奇譚でゆくか経験のない「推理小説」でゆくか……
船見にある実業寺の墓地で、流介ががまとまらない考えを持て余していた、その時だった。
「また考え事かな、飛田くん。若いのにあまり考え込みすぎると、逆に物を書く筆もにぶってしまうのではないかな」
ふいに声をかけられ、振り返ると顔なじみの住職、日笠が立っていた。
「住職、今回の「謎」は難儀でうまく記事にまとめられそうにありません」
「なるほど、では思い切って『匣の館』に行って『港町奇譚倶楽部』の推理でも聞いてみるというのはどうだろう」
「匣の館に……ですか?」
流介ははっとした。確かに『港町奇譚倶楽部』の人たちなら、形の合わない破片をうまくつなぎ合わせてくれるかもしれない。
「ちょうど私もこれから安奈君と一緒に『匣の館』に赴くことになっている。今日は早い時間に例会を行う予定なのでね」
住職が誘いの言葉を口にした、その直後だった。
「やあこんにちは住職さん。……おや、飛田さんもいらっしゃるとは。奇遇ですね」
「あらっ、本当だわ。やっぱり「謎好き」はひとつの場所に引き寄せられるのかしら」
にこにこしながら住職の前に姿を見せたのは、天馬と安奈の二人だった。
「君たち、どうしてここへ?」
「僕と安奈が会ったのはたまたまです。安奈は『港町奇譚倶楽部』の例会に住職を誘いに来たそうです。僕は海外の知り合いに頼まれて考案した、船上で法要を執り行うための仏具を住職に見てもらおうと思って来ました。……飛田さんは?」
流介が植松恵次郎事件のことでなかなか謎が解けずに難儀しているというと、天馬が「ちょうどいいじゃないですか。例会に出て『奇譚倶楽部』の皆さんからお知恵を借りればいいんですよ」と言った。
「謎のいくつかは何となく解けたような気もするんだが……いいんでしょうかね」
「もちろん、いいに決まってるわ」
天馬に先んじて返事をしたのは、安奈だった。
「じゃあ飛田さん、私たちと一緒に『匣の館』に行きましょ。……天馬、私は飛田さんと住職をカフェーにお連れするから、ここでお別れよ」
「ああ。僕は『幻洋館』の方にいるから、もしどうしても謎が解けなければ港まで来るといい。今日は天気もいいし、出港するにはもってこいだ」
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