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「ではここからは私の推理を聞いていただきたい」
そう言って身を乗り出したのは、日笠だった。
「私の意見は大筋においてウメさんと似通っています。……ですが、私の考えでは『幻の女郎』は女装した『道理庵』の主だったというものです」
「なぜ女装を?」
「それはもちろん、女性になりたかったのでしょう。しかし一方で彼には翻訳家として成功したいという野心もあった。文学の世界で力量を示すには男のままの方が都合が良いということで、女に化ける楽しみと文学者として同好の志と語らうという二重生活を送っていたのでしょう。
それに気づいた田倉が植松氏に「一度、女郎の正体を確かめた方がいい」と進言し、植松氏は『冲船屋』で問いただした。あとはウメさんと同じです」
日笠は一気に語り終えると、「私の読み解きはここまでです。全ての謎を解くのは他の方におまかせいたします」と言って自分の発言を終えた。
「最後は私ですね」
そう言ってしばし間を置いたのは、ウィルソンだった。
「この事件は謎が多く奇譚呼ぶにふさわしい事件ですが、私は案外単純な構図だったのではないかと思います」
そう言うとウィルソンは自分の推理を述べ始めた。
「私は単純に、殺害されたのは植松氏ではなかったのではないかという仮説を立てて見ました。いかがです?」
ウィルソンが結論部分を口にすると、テーブル全体がざわついた。
「では、殺されたのは?」
「田倉です。植松氏はしつこく金を無心してきたばかりでなく、自分が親しくしている女郎にまで色目を使い始めた田倉を邪魔に思い女郎と結託して田倉を殺害したのです」
「では『道理庵』の主は?」
「その人はほぼ、無関係と言っていいでしょう。まず植松氏は田倉を女郎の名で『冲船屋』に呼びだします。この時、絶対に周囲の人間に見られない方法でと釘を刺します。そしてどういう手段でかはわかりませんが、田倉は言われた通り人目につかないやり方で先に店に入って女郎を待ったのです」
「人目につかないようにというのは、どういう理由があるのですか」
「田倉が死んだのではなく消えたと思わせるにはそれしかなかったのです。田倉を店に待たせた状態で、今度は女郎と植松氏が人目につくよう堂々と店に入ります。そこで予定通り田倉を殺害し、首を切断するのです」
「なんのために?」
「死んだのが自分――植松氏だと思わせるためです。植松氏と女郎は何らかの理由でしばらく姿を隠したい、消えたいという願望があったのです。そこでかねてから目障りな存在だった田倉を自分の身代わりに殺害し、首を持ちだして死体が誰だかわからないようにしたのです」
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