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14 封鎖明けに備える
「そんで、その逃げる日だけどな、次代様が生まれて、封鎖が明けた時なんだろ? どんな感じになるんだ?」
「俺も前回1回だけのことだし、今回が同じかどうかは分からん。何しろ、前回が前回だっただろ?」
前回は言うまでもなく、先代がいきなり亡くなるという、信じがたい事態があったということだ。
「もしかしたら、今回は絶対にそんなことがないように、なんか特別の儀式とかがある可能性もある。そのへんも、宮にいたらよく分かったかも知れねえけどなあ」
「こんな時こそあそこに呼ばれたら、兄貴やミーヤさんたちに聞けるかもしんねえのに、肝心の時に役に立たねえな、あの神様」
ベルがはあっとため息をつきながらそう言ったので、その神様の一部らしいシャンタルが声を出して笑った。
「ベルはやっぱり何があってもベルだね」
「って、おまえもなんか分からねえのかよ、託宣があるとか、そろそろ次代様が生まれそうだとかさ。そもそも、もうすぐ生まれるってのは分かったんだろ? それによ、おまえの妹なんだぜ、生まれてくるの。なあ、なんかないのか?」
「いや、そう言われても」
ベルの言うことももっともなのだが、シャンタルとて自分でどうこうできることではない。
「まあ、生まれたら鐘が鳴らされるのは間違いない。前もそうだった。とりあえずその鐘が聞こたら封鎖明けは近い、のか? どうだっけかな」
トーヤが記憶を探りながら、
「次代様が生まれたって鐘は……、いや、それは鳴らなかったな。封鎖明けの鐘が鳴って、それが次代様が生まれたって知らせだった。生まれてすぐは宮の中には知らせが来たが、次代様と親御様が落ち着いたらもう安心だってので、そんで知らせがあった気がする」
「ってことは、もしかしたら、今はもう生まれてる可能性もあるってことだよな」
「そうかも知れんな」
「じゃあ、封鎖明けの鐘と同時に、衛士たちがカースになだれ込んでくる可能性もあるんじゃねえの?」
「もしも、本気でカースを調べに来るつもりなら、その可能性もあるな」
ルギだったらそのへんはぬかりがなかろう。おそらく、トーヤたちがここにいるだろうと当たりをつけてるだろうし。というか、もうここ以外に行けるところがなかろうと、少し調べればほかの衛士たちだって考えつくことだ。
「なあ、もしも衛士に捕まったら、おれたちどうなるんだ?」
「うん?」
ベルの質問にトーヤが少し考えて、
「さあ、どうなんのかな?」
と答える。
「おいおい、たよんねえなあ」
ベルがそう言ってはあっとため息をつき、トーヤが少し笑いながら、
「とにかく、何があってもシャンタルの正体がバレないようにだけはしねえとな」
「そうだな、それが一番大事だな」
と言って、ベルも同意した。
そう、この国ではシャンタルの姿は決して表に出すことはできない。
「だから、予定通り、マユリアの海の半島の先、あそこの船に隠れる。おそらく普通の衛士ならあの半島の先にまで来ねえだろうが、何しろルギがいるからな」
ルギはカースの出身である。ルギなら思いつく可能性がある。
「ダリオの兄貴が船を引いてきてくれて、色々乗せてくれてるけど、その船以外に身を隠す場所もないし、誰かが半島に来る姿が見えたら、とりあえず船を出してキノスに行くしかねえな」
結局のところは、それぐらいしか決めることがない。
とにかく、封鎖が解けないことにはどうにも動きが取れないというのが本当のところだ。
「もうすぐ夜だけど、寝てても大丈夫なのかなあ、ってもう寝てるし!」
トーヤとベルが色々と話をしている横で、シャンタルはマントにくるまって、もうすうすうと寝息を立てていた。
「いつの間に……」
「そいつがそうして寝てる間は大丈夫な気がするな」
トーヤがそう言って笑いを噛み殺している。
「まあ、俺らは交代で寝よう。おまえ、先に寝とけ」
「分かった」
トーヤに言われてベルもシャンタルの横に体を横たえる。
シャンタルは横向きに寝ているため、マントから美しい寝顔が見えている。
「ほんっと、なんなんだよこいつ。危機感なさすぎる」
そう言ってベルが寝てるシャンタルに軽くデコピンをかましたが、
「う、うう~ん」
と、虫かなにかがとまったかのように手で軽く払うと、目を覚ますこともなくそのまままた夢の中。
「なんでおまえは痛くなんねえんだよ」
トーヤが目を眇めて納得できない、という調子で言う。
「トーヤはやったことあるのか?」
「いや、ない。お仕置きが怖くてやったことはねえな」
「やってみたら?」
言われてトーヤが少し考える風にしたが、
「いや、俺はそういう危ねえ橋は渡りたくない」
と言ったので、ベルが笑いながら、
「根性ねえなあ」
と言って、シャンタルの代わりにデコピンを受けた。
2人が寝てしまったので、トーヤは一人、張番をしながら色々と考える。
『マユリアを助けてください』
女神はそう言った。
だが、誰が敵であるのかは話せないと言った。
(つまり、だ……)
トーヤは見事な海神神殿の内部を眺めながら一つの確信を持っていた。
(宮の中にいるんだよな、多分)
それはもしかしたら、トーヤの知っている誰かかも知れない。
おそらく、マユリアの近くにいる「誰か」がその敵なのだ。
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