ふたごのハス

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 陽太は両手を腰に当て額を見上げる。 「拝殿の中に入ってみましょう」 「え、入るの?」 「罰が当たるかしら」 「多分、当たらないと思うけど……」 「じゃ、入りましょう。私たちが呼ばれた理由の謎解きと、双子の花の謎が解けるかもしれないわ」  今までにみたことがないほど、春香の表情は真剣だ。 「いいよ」  陽太は気が進まなかったが、春香の勢いに押されて入ることにした。   四 春香の罪 「私が先に行くわ」  春香が階段を上り始めた。足を踏み込む度にミシッミシッと板が軋む。 「階段の板が壊れないかなぁ」  春香の後に続きながら、陽太は足下が気になって仕方がない。  階段は地面から二メートルを超えていて、しかも角度が急で高いのだ。 「陽太ちゃん、早く」  先に上がった春香が、入り口の手前で陽太を振り返る。  陽太もすぐに上がっていく。 「入りましょう」 「うん」  春香はキャップを脱いで一礼すると陽太に返し、スニーカーを脱いで中に入った。 「窓が一つもないや」 「どうりで暗いはずね」  二人は目が慣れるまで周囲を見まわした。 「底が抜けないかな」  陽太は歩く度に床板がミシッミシッと鳴るので気が気でない。 「大丈夫よ。神様に歓迎されていれば」 「だといいけど」 「ね、見て! 奥に祭壇があるわ」 「どこどこ」  ようやく目が慣れてきたのか、周囲がうっすら見える。  陽太は奥の祭壇に目をやる。 「二つの花の絵よ」  春香が祭壇の最も高いところの額を見上げた。 「ほんとだ。また二つの花だ」 「鏡も、葉っぱを挿す花瓶もないわ」 「神様の名前が書かれていればいいのに」 「ほんとね。手がかりなしだわ」 「何か見つけたよ!」 「なになに!」  春香は陽太の発見に心を躍らせた。 「あそこみて。あれなんだろう?」  陽太が指さしたところに、乾燥して黒ずんだ巨大なレンコン型の、大きなシャワーノズルみたいな、不気味な実が二つ祭られていた。 「気味悪い実ね」 「これレンコンの穴にそっくりだ」 「穴に種みたいなものが詰まってるわ」  春香は二つの実をつぶさに観察した。 「見れば見るほど不気味だよね」  陽太は背筋に電気が走るように、ブルッと身震いする。 「手洗い場で見た花の絵の中心にそっくりよ」 「ほんとだ。これ、双子の花の種なんだ」 「双子の子供かしら!」 「きっとそうだよ」
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