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一 ふたりの夢
アジサイが鮮やかな紫色で染まる早朝、小学五年生の野原陽太(ひなた)は、家の近くの公園で仲好しの白石春香(はるか)と久しぶりにブランコ遊びをしていた。
春香は陽太の幼なじみで同い年だ。
梅雨の雨がしとしとと降ってはやみ、やんでは降るを繰り返していたのが、六月最後の日曜日の今日ピタリとやんだ。
空を見上げれば青空が広がり、吹く風は頬にやわらかく空気は澄みきっている。
小学生とはいっても、つい四ヶ月ほど前までは、思いっきりブランコで遊べていたのが、五年生になってから、急に下級生の目が気になって遊びにくい。
「ブランコ大好き!」
春香は他人の目なんかお構いなしに楽しそうにブランコを漕ぐ。
早朝だから近所の小さな子供達もいなくて、貸し切り状態だ。
「気持ちいいわね」
「う、うん」
陽太はブランコを飛ばせば飛ばすほど、気分が爽快になるはずだったのだが……。
「最近、変な夢を見るんだ」
陽太は浮かない顔でそういって濃紺のスニーカーで砂を蹴り、ブランコのスピードを落とした。
「変って、どんな夢?」
春香は腰で弾みをつけ勢いよくブランコを漕ぎ続ける。
耳の後ろで二つに分けた長い黒髪が、風になびいてつやつや輝く。
「毎晩のように同じ夢を繰り返し見るんだ」
陽太は踵に力を入れブランコを急に止めた。
白のTシャツとジーンズの短パンが汗でびしょ濡れだ。
「ほんとに!」
春香の涼やかな目が一回り大きくなる。
「森と池の夢ばかりみるんだ」
陽太は顎をつきだし深いため息をつく。
「びっくり、私もよ!」
春香は両手にグッと力を入れて腰を捻る。
「ほんと!」
陽太はビックリしてブランコから滑り落ちそうになる。
「私も森と池の夢ばかり見るの」
春香はラベンダー色のスニーカーでブランコを止め、CATのロゴ入りの黒いTシャツとジーンズのショーパンを整えた。
「春香ちゃんも!」
陽太は両目をまん丸にして春香をみる。
「小さな森に大きな池があるんでしょう?」
春香がブランコから身を乗り出す。
「その夢だよ!」
陽太の目が瞬く。
「私たち夢の森に呼ばれているのかもね」
春香は陽太の目をじっと見る。
「僕もそう思う」
陽太は頷き春香を見る
「陽太ちゃん、私たちどうして森に呼ばれたのかしら?」
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