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幅が五メートルほどの建物で、木材の痛みや色からして、とても古さを感じさせる建築物だった。
「神社の拝殿があるわ。入ろう」
春香が急に早歩きになった。
「春香ちゃん、ちょっと待って」
陽太が慌てて引き留める。
「どうしたの?」
「手を洗わないと神様に怒られちゃうよ」
陽太が真剣な顔つきで、屋根のある手水舎の方に首を向ける。
「そっか」
春香もコクンとうなずく。
二人は肩を並べて手水舎へ歩いて行った。
「水、たまってるかな?」
陽太は手を洗うつもりだったが、手水舎に近づくにつれ不安になった。
屋根は苔が生え、柱は黒く腐りかけているからだ。
「緑の藻が生えて、変な虫がたくさん泳いでるかもね」
春香が悪戯っぽい目で陽太をからかう。
幼稚園のころからいつも春香は、気味の悪い毛虫や手足が長いカミキリムシを見せて、陽太をからかう悪趣味なところがあるのだ。
「春香ちゃん、おどろかさないでよ」
陽太は肩を抱いて身震いした。
「あはは」
春香は陽気に笑い、頬をほころばせる。
二人は手水舎に着くと、硬い石で造られた水盤の中を覗き込んだ。
「水がすごくキレイ!」
陽太は目を瞬く。
「飲めそうね」
春香は瞳を輝かせた。
「飲めるかも」
陽太はひしゃくを手に取り、飲む気まんまんだ。
「ね、鏡みたい」
水面にタマゴみたいな春香の顔が映っている。
春香は陽太の頭からキャップをふいに取ると、長い髪を後ろで器用に丸めた。
「陽太ちゃん、となりに来て!」
春香が陽太のシャツの袖をグイッと引っ張った。
陽太の肩が春香の肩に密着する。
鏡のような水面に、形のよい二つの卵みたい顔が浮かび上がった。
「私たち双子みたい!」
春香が大きな黒い瞳を輝かす。
陽太も瓜二つの顔かたちに驚く。
「ほんとだ!」
陽太と春香は目を合わせ、声をあげて笑う。
「写真、撮るよ」
春香が言ったときはスマホに二人の画像が映っていた。
「見れば見るほど似てるわね」
春香は新しい発見に自己満足しているようだ。
「う、うん」
陽太も言われてみれば似ているのを否定できない。
「インスタに載せていい?」
春香が笑みを浮かべる。
「う、うん」
陽太は気のない返事をする。
(まえからネットに写真を晒したくないこと知ってる癖に)
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