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「私が常にクラスや社会で感じる不自由さは全てそれが原因なのよ」
「僕たちホントに見かけも中身もそっくりだ」
「うん、ただ一つのことを省いてね」
「ただ一つって?」
「私は女性で陽太は男性って決めつけられてるってことよ」
「あ、そういうことか。でも、性別って誰が決めたの? 世の中には肉体は男だけど心というか精神は女の人もいるし、その逆もいるよね」
「男でも女でもない人もいるわ。そう考えると性を分けることは差別に繋がるわ」
「男や女、人種、宗教、国境、それらがどうでも良いニュートラルな社会だったら自由になれると思う」
「陽太、素敵すぎ」
春香がまたハグしてきた。
今度はもう恥ずかしくなんかない。
「僕、春香の弟になるよ」
陽太は勢いで大胆に宣言してしまった。
ホントにこれで良かったのか自分でも分からない。
「うわぁ、やった! 私、一人っ子だから陽太ちゃんのような弟がいてくれたら、嬉しいっていつも思ってた」
春香は陽太と腕を組んでもう一度水盤を背に写真を撮った。
(小さいときからずっと今みたいに手をつないだり、腕を組んだりして遊んでいたのに、いつから春香を意識するようになったのだろう)
嬉しいけれど陽太の心のモヤモヤはスッキリしなかった。
「この水、雨水かな?」
陽太は水盤の水がどこから入っているのか気になって仕方が無かった。
よく行く神社の水は龍の口から水が出ているがこの水盤に龍はなく、それに変わる竹のパイプも水道管もないのだ。
「違うと思う。だって縁から水が溢れているわ」
春香は水盤の縁の高さまで身を屈め、縁から水が少量ずつ溢れ出るのを見逃さなかった。
「それで苔が生き生きしているんだ」
陽太が水盤から零れる水を指先で触ってみる。
「ね、見て! 水の底に花の絵があるわ。しかも、また二つよ」
鼻先が水に触れそうなくらい、春香は顔を近づけてみる。
「鳥居の額に描かれていた二つの花の絵と同じだね」
陽太も春香と肩を並べて水盤の底を不思議そうに見つめた。
「花の絵が揺らいでいるわ。絵のどこかに水の出口があるのよ」
春香は目を凝らせながら水盤の底を探る。
「どこだろう」
陽太も身をのりだす。
「きっとあの花の真ん中から水が出ているのよ」
花の中心にシャワーの口のような絵柄が刻まれていて、細かな穴がいくつも空いていた。
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