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「水道管でもつながっているのかな?」
陽太は屈んで水盤の土台を調べたが、苔の生えた石ころしか見当たらない。
「湧き水かしら」
「たぶん違うと思うけど、石の底に沢山穴を開けて、湧き水のところに置いたんだよ」
「陽太ちゃん、いい感じよ!」
春香は真っ黒な瞳をキラキラ輝かせた。
「春香ちゃん、この花の名前を知ってる? なんか見覚えがあるんだ」
陽太は腕を組んで記憶をたどるが思い出せない。
「私もよ。この花、どこかで見たことがあるわ」
花の絵に懐かしささえ感じるものの、花をどこで見たのか春香にもなかなか思い出せない。
「手を洗いましょう」
「うん」
二人は柄杓で水を掬い手を洗う。
水盤の目と鼻の先に神社の拝殿が建っている。
「今にも壊れそうだね」
幽霊屋敷でも見た時のように、陽太の腰が引いてしまう。
「かなり昔に建てられたものよ」
二人は原形をとどめていない左右の狛犬らしき石の塊を通り抜け、拝殿の正面に立った。
「それにしても変だなぁ」
「どこが?」
「だって木の船みたいだもん」
「そういえばそうね」
神社の拝殿にしては横幅が広すぎて、まるで長方形の木箱みたいだと春香も思う。
「こっちに来て!」
陽太が拝殿の右側にまわりこむ。
春香も後からついて行く。すると、側面が船のように少し三角形に尖っていた。しかも、拝殿は太い幾本もの丸太の杭に支えられ、あきらかに地面から二メートル位の高いところにあるのだ。
「家の近くの神社と全然違うや」
「よく行く町の神社とも似てないわ」
二人は神社の拝殿をぐるっと一周し正面に戻った。
「あの扉が入り口ね」
「きっとそうだね。まるで映画で見た家型の船みたい」
「ノアの箱船?」
「うん。両親と一緒に見たんだ」
「私も」
二人は見つめ合い、この不思議な神社の拝殿を見上げた。
「お賽銭箱が壊れてる」
「ドロボウが壊したのよ」
「罰が当たるのに」
「きっともう当たってるわ」
「だね」
「あそこ見て!」
陽太が拝殿の入り口に掲げられた木製の額を指さした。
「またあの二つの花だわ」
「二つの花が、この神社の神様なんだ」
「きっとそうよ。間違いないわ」
陽太と春香は並んで頭を下げ、手を叩き花の神様に挨拶した。
「何の花だろう。やっぱり気になるなぁ。ヒマワリは花の中心にブツブツがたくさんあるけど、シャワーみたいじゃないから違うし」
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