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今年で創業百周年を迎える建設会社『瀬戸組』を地元の人間で知らない者はいない。男はそこの三代目社長。女はその妻である。 この社長が資産家にも関わらず腰が低く人当たりが良いため社員だけでなく近隣住民からの人望も厚い。加えて愛妻家で、おしどり夫婦としても有名だった。 そんな二人に待望の娘ができたという吉報は口伝えで、あっという間に広がっていき、そこかしこから次々に祝いの言葉や品物が届いた。 「瀬戸さんのお宅ついに娘さんができたらしいわ!おめでたいわね!双子ちゃん姉妹みたいよ?」 「あらそう!良かった!奥さん妊活頑張っていらっしゃるみたいだったから…ここ二年…くらい?姿見ていなかった気がする。自宅出産かな」 「女の子…後継ぎはどうなさるのかしら」 買い物帰りに井戸端会議をしていた主婦達は、その一言に揃って顔を硬くした。 「ちょっ…今そんなこと言うもんじゃないわ。不謹慎よ。お祝い、どうするかみんなで決めません?」 一人が声を低くして咎め、明るめのトーンで提案すると誰もが「そうしましょう!」と同調した。 当然、長女の名前が純麗、次女の名前が綾芽という事も自然に流れていく川のように知れ渡っていった。
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