#02 ビターな社員旅行

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 それから忙しい日々は続き、チョコを貰った日から2週間ほど経っていた。 「宮永さん、今日は定時で上がれるよ!本当におつかれ。」 「ありがとうございます。お疲れ様です」  上司からありがたいお言葉を頂き、久々の定時退勤となった。  あのチョコは残業の積み重ねで疲弊した日に1個食べたので、残り1個になってしまった。  支社の人に聞くために残しておいたチョコ。早く食べてしまいたいので今日は持ってきていた。  それを、帰り支度をするときにカバンから発見し、会社を出た瞬間、反対の方向に歩き出した。  数分後、マップで何度も確認した支社に到着した。弊社よりも立派な建物だな…  受付の方に事情を話し、チョコを渡す。彼女はチョコを見た瞬間首を傾げ、上司に相談をした。その上司も深く考え込んで、お偉いさんへと内線を繋ぐ。 「あの…ここの商品ではなかったでしょうか」 「いえ、ただ日本では販売していない商品ですので、確認に時間がかかっております。申し訳ございません。あちらでおかけになってお待ちください。」 「すみません、ありがとうございます」  申し訳ないな…でも本当に美味しかったんだ。 ────10分後。 「宮永様、お待たせいたしました。」  5人ほどスーツを着た人がこちらに向かって歩いてくる。 「あ、いえ、とんでもないです」  どうやら上層部の方の時間まで割いてしまったようで、罪悪感にかられた。  真ん中にいる方はどう見ても日本人じゃない。本社の方かな…?  彼は通訳の方を通して私に話しかけた。 「宮永様、このチョコはどなたからもらいましたでしょうか」 「えっと…通りすがりのお兄さんです。ぶつかったお詫びに、と、このチョコを貰ったんです。」  秘書とおぼしき方にも人物の詳細を聞かれ、通訳の方が伝え終えると、お偉いさんはため息をついて軽くうなだれた。そして話し始める。 「彼は少し前まで本社とコラボしていた一流ショコラティエでして。契約期間を終えた途端、連絡が途絶えてしまったのです。」  あの人、そんな有名なショコラティエだったんだ!  言葉も出てこないほど驚いていると、秘書の方が1歩前に出て、私に名刺を渡した。 「彼の名前は佐藤カナメと言います。こんど街中で彼を見かけたら、こちらに連絡するように言っていただけませんでしょうか。」 「え、あ、私あの、赤の他人ですし…」 「どこどこで見かけた、と連絡いただくだけでも結構ですので、是非ともよろしくお願いいたします。」 「わかり、ました。失礼します…」 「あ、宮永様。お待ちください。」 「はい?」 「よろしければ、受付の方で住所をご記入いたたけますか。後日同じものをお送りいたしますので。」 「え!いいんでしょうか…」 「彼がこの辺りに居ることを知れたので、取締役は非常に喜んでおります。そのお礼です。」 「ありがとうございます…!」  やっぱりさっきの外国の方はお偉いさんであったか…。にしてもラッキーだったな。チョコが無料で届くとは!  ちなみに佐藤カナメさんから貰ったものは試作品で、世に出ているコラボ商品はもっと包装が豪華らしい。  世の中不思議なことがあるもんだ。  チョコレート業界に詳しくないけど、世界規模で有名なチョコレートメーカーとコラボするほどのショコラティエなら名前を検索すれば一発で出てくるだろう。 ──────────  帰宅するなり、すぐにスマホを手に取る。 「さとう、かなめ…っと」  最初に出てきたのは“天才ショコラティエ佐藤カナメ、電撃引退”のネット記事。とりあえずクリックする。  ああ、この人か。名前も顔も見覚えがあるなと思ったら、彼は日本で最も有名なチョコメーカーとコラボしていたことがあって、その商品に名前と顔がデカデカと載っていたからであった。  前に会った時のことを思い出す。  夜道でぶつかって、彼は相当酔っ払っていた。関西弁が特徴的だった。顔は暗かったのであまり覚えていないが、こんな派手な金髪ではなかった。帽子をかぶっていたけど、あれは確実に黒髪だった。  さらに検索結果を遡ると、“元天才ショコラティエ・佐藤カナメの現在の姿”という記事を見つけた。これもクリックする。
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