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後ろに……
佐藤カナメがいた。
この状況に理解が追いつかなくて、ただただ彼を見つめることしかできなかった。
「ちょ、前進んでますよ」
私のことに気づいていないのだろう。まぁ、彼が酔っ払っているときにぶつかっただけだからね。
「あ、すみません」
前との距離を詰めて、冷静に考える。
あのときのお偉いさん。佐藤カナメともう一度仕事がしたい、と何度も言っていた。
あんな優しい人にチョコ貰ったんだもん、こちらとしては恩を返すしかない。
「あの…!」
「なんすか」
「佐藤カナメさんですよね?」
「……人違いです」
そんな訳なかろう。目を逸らし、呆れたような表情をした彼を見逃さなかった。絶対ウソついてる!
「マリボンチョコレートのお偉いさんがあなたのことを探してました」
「…え?」
「…」
「あなた何者ですか?」
商品として発売されてはいるが、誰が監修したかは1週間後に発表となっている。そりゃ警戒されるよね。
「佐藤さんと以前お会いしたことがあるんですが、覚えてますか?」
「…いや、全然」
だよね。それが普通だと思いますよ。そう思いながら、あの日のことを事細かに話す。
「うわ……試作品配ったこと怒ってないかな」
「そのことに対しては全く気にされていないご様子でしたよ。それより、契約期間が終了した途端に連絡が途絶えたことを残念がっていました」
「…そうでしたか。すみません、僕の不注意でこんなことに巻き込んでしまって」
「いえ!お気になさらないでください」
とりあえずチョコをもらったお礼の分は働いた気がする。
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