#01 傾いたフルーツタルト

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 ふふん。今日はいい日だ。残業して丁度いいぐらいの運のバランスだ。  風が心地いいと感じる秋の夜長。鼻歌交じりに夜道を歩く。危うくスキップをしそうになったが、直前にケーキを持っていたことに気づいてやめた。  しばらく歩いていると、最悪の事態が起きた。  曲がり角で、誰かとぶつかってしまったのだ。  その衝撃で尻もちをついてしまい、驚きから痛みに集中の対象が変わる。 「いった……」 「すんません!お怪我ないですか?」 「大丈夫です、こちらこそすみません……」  あ、ケーキ。どこ…?  辺りを見回すと、持ち手が真横になったケーキ箱を見つけた。  ぶつかった男性はケーキ箱を持ち上げ、中身を確認した。 「あかん…めちゃくちゃになってもうた」  そう聞いた瞬間、たかみんの優しい顔が頭に浮かんだ。ごめん、たかみん…。 「ほんますんません…これ、どこの店で売ってました?」 「気にしないでください!胃に入れば同じですよ〜あはは」 「でも泣いてまんで、お姉さん」 「え?…」  頬のあたりを撫でると、濡れていた。 「いやぁ、何ででしょうね!涙腺おかしくなってるみたいです笑」  男性は少し屈んで私の顔を覗き込んだ。夜なので暗くてあまり顔が見えていなかったが、屈んだことで街灯に照らされてハッキリと見えた。  ……イケメンだ。こりゃあ、学生時代のバレンタインデーはチョコを山ほど貰ってただろうな。羨ましい。  …ちょっと待って。よく見ると、顔赤くない?もしかして…酔ってる?先程からうっすらテンションが高かったような気がしなくもない。  スーツを着崩してる。営業の人かな?付き合いで飲んで帰りの途中だったのかも。 「ああ、これ良かったらもろてください。お詫びっちゅーやつです」  彼がカバンから取り出したのは、キャンディのように包装されているチョコレートだった。 「チョコレート…?」 「へへっ、これはベルギーの友達から送られてきたうんまいチョコです!」  いかにもお高そうなチョコを3つもくれた。 「これ食べたらきっと俺のことも許してくれるはずやぁ、へへっ」 「私の不注意でもあるので、そんな受け取れません!」 「うわぁ…なんか気分悪なってきた。ほなさいなら!」  半ば強引に私にチョコを持たせると、彼は早々と去ってしまった。
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