1人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
ふふん。今日はいい日だ。残業して丁度いいぐらいの運のバランスだ。
風が心地いいと感じる秋の夜長。鼻歌交じりに夜道を歩く。危うくスキップをしそうになったが、直前にケーキを持っていたことに気づいてやめた。
しばらく歩いていると、最悪の事態が起きた。
曲がり角で、誰かとぶつかってしまったのだ。
その衝撃で尻もちをついてしまい、驚きから痛みに集中の対象が変わる。
「いった……」
「すんません!お怪我ないですか?」
「大丈夫です、こちらこそすみません……」
あ、ケーキ。どこ…?
辺りを見回すと、持ち手が真横になったケーキ箱を見つけた。
ぶつかった男性はケーキ箱を持ち上げ、中身を確認した。
「あかん…めちゃくちゃになってもうた」
そう聞いた瞬間、たかみんの優しい顔が頭に浮かんだ。ごめん、たかみん…。
「ほんますんません…これ、どこの店で売ってました?」
「気にしないでください!胃に入れば同じですよ〜あはは」
「でも泣いてまんで、お姉さん」
「え?…」
頬のあたりを撫でると、濡れていた。
「いやぁ、何ででしょうね!涙腺おかしくなってるみたいです笑」
男性は少し屈んで私の顔を覗き込んだ。夜なので暗くてあまり顔が見えていなかったが、屈んだことで街灯に照らされてハッキリと見えた。
……イケメンだ。こりゃあ、学生時代のバレンタインデーはチョコを山ほど貰ってただろうな。羨ましい。
…ちょっと待って。よく見ると、顔赤くない?もしかして…酔ってる?先程からうっすらテンションが高かったような気がしなくもない。
スーツを着崩してる。営業の人かな?付き合いで飲んで帰りの途中だったのかも。
「ああ、これ良かったらもろてください。お詫びっちゅーやつです」
彼がカバンから取り出したのは、キャンディのように包装されているチョコレートだった。
「チョコレート…?」
「へへっ、これはベルギーの友達から送られてきたうんまいチョコです!」
いかにもお高そうなチョコを3つもくれた。
「これ食べたらきっと俺のことも許してくれるはずやぁ、へへっ」
「私の不注意でもあるので、そんな受け取れません!」
「うわぁ…なんか気分悪なってきた。ほなさいなら!」
半ば強引に私にチョコを持たせると、彼は早々と去ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!