#01 傾いたフルーツタルト

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───翌朝。 「うわ時間やばっ!アラーム鳴った!?」  このままじゃ会社に遅れてしまう…。やばいな、と急いでスマホを確認する。 「あ、土曜じゃん…」  休日だとわかった瞬間の安堵感と二度寝する瞬間の幸せを味わえるとなると、こういう焦りも悪くない。 「ん?待って。土曜…?」  毎週木曜日は“推し”のYouTube配信日だ。一昨日は残業でへとへと。昨日見ようと決めてたのに、ベルギーチョコが気になりすぎてすっかり忘れていた。  二度寝はそっちのけでパソコンを開く。推しは大画面で浴びるのが吉!  開始早々、画面いっぱいに映し出されるチョコレートのお城。いつものオープニングだ。  私の推し、もっぱらしょこらさんは週に一度、実況しながらスイーツを作る動画を上げている。特徴的なのは、その声。ヘリウムガスを吸った面白おかしい声で平然と説明をする。  チョコレートのお城は総制作時間10時間。タイムラプス形式で3回にわたって投稿された。  就活時代、落ち込んでいる時にたまたまYouTubeのおすすめ欄に出てきた動画。サムネイルに引き寄せられ動画を見てみると、面白い声が聞こえ、久々に声を出して笑った。それがもっぱらしょこらさんである。  顔出しはせず、手元だけを映すスタイル。終始の挨拶は素っ気ない感じがするが、お菓子を作り出したら楽しそうにチョコレートの知識をぽつりぽつりと零していく。  そういうオタク気質なところに共感が持てたのかもしれない。彼はお菓子作りに、私は甘いものに目がないんだ。  こういった経緯で3年ほど彼のファンを続けている。  私の夢はいつかパラショさんに会うことである。彼とチョコレートについて語り合いたい。知識がある訳ではないが、情熱はある。  にしても、10万人も登録者がいるのに、本も出版しない、オンライン通販もしないのは勿体ないなと思う。私なら直ぐに商業利用しますけどね。
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