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「うん、こんな感じだった」
写真の中の彼は、出会った時よりも少しやつれていてた。
他にも“佐藤カナメ、引退の裏に潜む影”や、“豪華女優Mとの禁断交際?!”などといった記事があったが、どうせもう会わないであろう人のことを調べたって時間の無駄だと思い、寝る準備を進めた。
「ふぁあー。ねむ…」
──────────
数日後。仕事帰りにスーパーで買い物をしていると、見知った顔を見かけた。
「値段も見ずにカゴに入れるタイプ?」
「うわーびっくりした。宙か」
「うん。たかみん今日休みだっけ?」
「おん、週に1回の貴重な休み。」
「へえ〜。今日魚なんだ」
「おう」
「え、なんで1匹だけなの?」
「…ああ、まりののこと、言ってなかったよな。別れた」
「まりのちゃんと別れたぁあ?!フランスまで着いてったのに」
「声でけぇから!」
まりのちゃんは、高校2年生の時に転校してきた女の子。たかみんのことが好きで、いつも幼なじみの私に恋愛相談をしてきた子。
正直言うと苦手な子。ちょっとたかみんと話しただけで、すぐに「宙ちゃんも鷹見くんのこと好きなの?」とか聞いてくるタイプ。
「高3あたりから付き合ってたよね?」
「宙があいつの態度にうんざりして『もぉ2人付き合っちゃってよ〜そしたら私への絡みもなくなるでしょぉおお?』とか言ってきた時期な。その頃はまだ付き合ってない。」
「そんな喋り方してないわ笑
てか、あの頃付き合ってなかったんだ」
「高校卒業してから俺は専門学校行って、まりのは服飾の専門学校行ってた。その頃から頻繁にLINEが来るようになってさ。」
「じゃあ、専門学校時代に?」
「俺が専門卒業してフランス行くって決めた時。まりのも着いてくっつーから。」
「なんでそんなに渋ったの?そんな積極的な女の子、なかなかいないよ」
「……アイス溶けるからもう行くわ。じゃーな。」
「ちょっと!まだなんも聞けてな…」
行ってしまった。まりのちゃんの話になるとすぐに話題を変えるかどっかに行くか、あからさまに顔をしかめるんだよね、たかみん。
遠のいていく背中を見つめていると、何かを思い出したように振り返った。
「また飲みに行こうぜ」
……久々に無邪気な笑顔を見たな。高校卒業してから私は県外の大学、彼は専門学校へ行ったので、なかなか会う機会がなかった。
────────
2年前の春、たかみんから電話があった。あれはまだ肌寒い夜のこと。
「なあ、今、宙の家の前に来てんだけどさ」
「え?なんで急に」
「さっっむ、風邪引くわ。すぐ来てくれないとこれ、やばいわ」
「はいはい、風邪ひいて待ってて」
……
「お待たせ。急にどうしたの?」
「実はさ、俺フランス行くんだ」
「え?フランス?」
「いつ戻ってくるか分かんないけど、修行してくる」
「まじか。しばらくはたかみんのスイーツ、食べられなくなるんだね。」
「おう……」
「…途中で音を上げて帰ってくるんじゃない?」
「意地でも修行を完遂してくるわ」
「ふふっ……」
「……」
彼は言いづらいことを喋る前に、よく頭をかく。
「なんか言いたいこと、あるんでしょ?もうしばらく会えないし、言った方がいいと思う。」
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