#02 ビターな社員旅行

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「……もし、もし宙が大学生じゃなかったら、ついてきてくれたかな……って」  あまりにも真剣な表情で言うので、目を逸らして必死に返答を考える。 「で、でも……」  まりのちゃんが、と言おうとしたけど思いとどまった。  もうしばらくたかみんとは会えなくなるのに。  なんでいっつも周りに遠慮してばっかりなんだろ、私。 「ねぇ、たかみ…」 「変なこと言って悪かった!あっちーし、もう行くわ。」 「…うん」 「また出発日が決まったら、連絡する」 「分かった。お互い頑張ろうね」 「おう、じゃあな」 「じゃあね」  あの時、呼び止めてでも自分の気持ちを伝えればよかった。今でもたまに思い出しては後悔が募る。  小中学生のときは、幼なじみだからというだけで、周りから夫婦扱いされていた。だから必要最低限しか喋らなかった。  たかみんは優しい。背が高い。顔がいい。運動は出来ないがモテる。告白を断る度に「鷹見には宮永がいるからなぁ」と男子に冷やかされていたのを何度かみた。  私も彼のことが好きだった。けど、周りの目が怖くて告白なんてできなかった。 ​ ──2週間後。たかみんから出発日を教えられてないので、LINEを送る。 (いつ出発するの?) 鷹〈わりい。その事なんだけど、かなり早朝になるから見送りしなくて大丈夫。〉 《何時でも行くのに》 〈宙だってもうすぐ試験だろ?俺のせいで単位落としたって言われたら面倒だから〉 《そんな器の小さい人間だと思った?》 〈まぁな。またフランス着いたら連絡する〉 《わかった。》  ──2週間後。偶然、友達からたかみんの出発日時を聞き、当日空港へと向かった。 「なんで早朝って嘘ついたんだろ。ま、いいや。マカロン買って渡して日本とフランスの味の違いを語ってもらお」  この時の私は今より鈍感だったから、そんなことを考えつつ彼を探した。  混雑期なのか、人が溢れかえる手荷物検査場前。彼を探すが、見つからない。  そんな中、見知った顔を見かけた。 「なんでまりのちゃんが…?」  彼女も見送りに来たのかな。それにしてはおかしい。大きなキャリーケースをひいている。  スタスタと歩いていく彼女を視線で追うと、たどり着いたのはたかみんだった。  彼女はたかみんの腕に嬉しそうに抱きついて、私に背を向けて歩き出した。そして、首だけ振り返って私を見てほくそ笑んだ。  あのときの顔は一生忘れられない。  
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