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「……もし、もし宙が大学生じゃなかったら、ついてきてくれたかな……って」
あまりにも真剣な表情で言うので、目を逸らして必死に返答を考える。
「で、でも……」
まりのちゃんが、と言おうとしたけど思いとどまった。
もうしばらくたかみんとは会えなくなるのに。
なんでいっつも周りに遠慮してばっかりなんだろ、私。
「ねぇ、たかみ…」
「変なこと言って悪かった!あっちーし、もう行くわ。」
「…うん」
「また出発日が決まったら、連絡する」
「分かった。お互い頑張ろうね」
「おう、じゃあな」
「じゃあね」
あの時、呼び止めてでも自分の気持ちを伝えればよかった。今でもたまに思い出しては後悔が募る。
小中学生のときは、幼なじみだからというだけで、周りから夫婦扱いされていた。だから必要最低限しか喋らなかった。
たかみんは優しい。背が高い。顔がいい。運動は出来ないがモテる。告白を断る度に「鷹見には宮永がいるからなぁ」と男子に冷やかされていたのを何度かみた。
私も彼のことが好きだった。けど、周りの目が怖くて告白なんてできなかった。
──2週間後。たかみんから出発日を教えられてないので、LINEを送る。
宙
鷹〈わりい。その事なんだけど、かなり早朝になるから見送りしなくて大丈夫。〉
《何時でも行くのに》
〈宙だってもうすぐ試験だろ?俺のせいで単位落としたって言われたら面倒だから〉
《そんな器の小さい人間だと思った?》
〈まぁな。またフランス着いたら連絡する〉
《わかった。》
──2週間後。偶然、友達からたかみんの出発日時を聞き、当日空港へと向かった。
「なんで早朝って嘘ついたんだろ。ま、いいや。マカロン買って渡して日本とフランスの味の違いを語ってもらお」
この時の私は今より鈍感だったから、そんなことを考えつつ彼を探した。
混雑期なのか、人が溢れかえる手荷物検査場前。彼を探すが、見つからない。
そんな中、見知った顔を見かけた。
「なんでまりのちゃんが…?」
彼女も見送りに来たのかな。それにしてはおかしい。大きなキャリーケースをひいている。
スタスタと歩いていく彼女を視線で追うと、たどり着いたのはたかみんだった。
彼女はたかみんの腕に嬉しそうに抱きついて、私に背を向けて歩き出した。そして、首だけ振り返って私を見てほくそ笑んだ。
あのときの顔は一生忘れられない。
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