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ダリアが城内にもどると、弟が一番に喜んだ。使用人たちもダリアの無事に笑顔を向けたが、彼女は笑えるはずもなく「しばらくそっとしておいて」と言って、図書室にこもった。
城内の人間はダリアの身代わりに親友がいけにえになったことをすでに知っているらしく、だれもがそれ以上ダリアに関わろうとはしなかった。
図書室は宮殿の端にある、中でもとくに広い部屋なのだが、本棚とそれを埋める大量の本がギュウギュウに詰められていて、ひとつの広い机と数脚のイス、そして通路と窓が二つだけ。部屋としては寂しくもあるが、読書が好きなダリアはこの部屋の匂いや雰囲気が大好きだった。この部屋をもっとも利用するのがダリアというのもあり、定期的に新しい書物と入れ替える本棚は、みなダリアの興味や好きな分野のものばかりが残るようになっていた。しかし、今のダリアが読みたい本は図鑑や辞典と言った類で、なかなか目的の本が集まらなかった。
「今度、書庫も見に行かないと」
そう言いつつ両手にかかえるほどの多くの本を机に運んで、読んでいた。いずれの本にもタイトルには「幻獣」「魔もの」「人外」と書かれている。
「シルエラに弱点があれば、アゼレアを取り返せるかもしれない」
森からもどってくるとき、ダリアがずっと考えていたことだった。そもそも、呪いやいけにえという事実に従うことしか考えなかったことがおかしい、と思い始めたのだ。
「なぜ、呪いにあらがうという考えを持たなかったのだろう」
ダリアはうでを組んで首をかしげた。
呪われるからいけにえを差し出す。しかし、その呪いがどんなものなのかをだれも詳細を知らないし、昔話にもくわしくは語られていない。だったら、呪いが起こることを危惧するより先に、呪いに立ち向かうべきだと思ったのだ。
「アゼレアを助けるために、自分がいけにえになってもいいと思った。けれど、それができない以上、力づくでもアゼレアを救い出す」
だがダリアには大人の男性ほどの力があるわけでもなく、シルエラのような魔法を使うこともほとんどできない。そんな彼女にできることは、できるだけシルエラという敵のことを知り、作戦を立てることだけだ。
「タコ人間なんてはじめて知ったけれど、唯一無二の存在ではないはず。きっと弱点があるわ」
ダリアはその日、陽が沈みきるまで図書室から一歩も離れなかった。
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