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昔話ノ章 ドラゴンの物語
むかしむかしのおはなしです。
ポラリス王国のはるか遠くから、ドラゴンがこのポラリス王国を攻撃してきました。そのドラゴンは、山をこえ谷をこえ、さらに遠くの向こうから、荒れ果てた自分のすみかを捨てて、食料が豊富なこのポラリス王国を自分のものにしようと思ってやってきたのです。
このポラリス王国は緑が豊かで、たくさんの野菜や穀物が採れました。澄んだ小川は、山から流れる雪解けの冷たくおいしい水で、栄養の豊富な川魚がたくさん泳いでいたので、国民たちはそれを獲って食べる生活をしていました。
王国の上空を旋回したドラゴンは、人々がみな笑顔で幸せそうに暮らしているのを見ると、とたんに腹を立てました。
(こんなに豊かな土地で、ドラゴンである自分より恵まれた生活をしている人間どもがいるなんて)と。
ドラゴンは他人の幸せを妬み、自分の幸せのためなら相手を攻撃しても良いと考える、困った性格の持ち主でした。さらに空腹が続くととてもイライラしだして、手当たりしだいに暴れだしてしまうという、身勝手で手の付けられないドラゴンでもありました。
もともとは新しいすみかと食料を求めての攻撃でした。しかし幸せそうな人間たちから食料を奪うだけではお腹が満たされても、気持ちが収まらない、と考えはじめました。
(そうだ、ならば「人間」たちをも、自分の食料にしてしまおう。そしてこの国の人間を根絶やしにしたらどうだろう? なんと楽しそうなことではないか! これだけ自然の果物や魚も豊富なら、自分のすみかにも適しているが、やっぱり人間は邪魔だしな!)
ドラゴンは深く考えるよりも先に、その大きな体から空気を震わせるほどの大声で宣言しました。
「この国の者たちよ、今からおれサマがお前たちをすべて食い尽くしてやろうぞ」
国中の国民たちは、その声にとたんに恐怖を感じ、泣き叫んでは右に左にと逃げ回りました。頭をかかえるものや、泣いてうずくまる者もいます。けれど、その肩をだきしめられるような余裕がある者はいません。
ドラゴンがおそってきた――国民のだれもが、大人も子どもも関係なく、ただ生き残るために必死になりました。その異常事態にいち早く立ち上がったのが、ポラリス王国の当時の王さまと、その弟の王子の二人でした。
王さまは多くの知恵を出して、人間でもドラゴンに対抗できる方法を考えだしました。
王子は王さまの意志を多くの国民たちに伝え、さらに前線へ出てドラゴンと戦いました。
団結した人間たちは、逃げるのをやめました。そしてたとえ相手が大きく強いドラゴンであろうと、一歩も引かずに戦い続けました。そしてついにドラゴンの左右のつばさに飛べなくなるほどのケガを負わすことができたのです。
「この……弱く小さな人間どもめ、おれサマをたおせると思うのか!」
ドラゴンは飛べなくなっても、魔法や炎の息吹で戦い続けます。けれど、空腹のせいで思ったように体が動かなくなっていきました。
ここぞとばかりに王さまは魔法のつえを掲げて国民たちに呼びかけます。
「民たちよ、あと一歩だ! ドラゴンに負けるな、この地を守るんだ!」
剣を構える王子とともに、王さまもドラゴンに魔法のつえを向けて攻撃します。
ドラゴンをじりじりと海へ追い詰め、あと少しで退治できる――そのとき、なんということでしょう。ドラゴンは「ガアアア!」とおたけびをあげながら全身を強く光らせたのです。
ドラゴンは最後の力を使いきってでも大きな魔法を人間に向かって放つつもりなのです。
王さまも王子も、ドラゴンの攻撃から国民を守る防御の体制をとりました。ドラゴンの放つ光がなにを引き起こすかわからなかったのです。
ドラゴンの光は徐々に周囲へと広がります。それはついに王さまと王子を包みこみ――そして周囲を巻き込んで豪快に爆ぜました。
「民よ、逃げるのだ――」
「ここは私たちが――」
辺り一面に赤い火花が散りました。モクモクと煙も立ちのぼります。
煙が消えると、そこにはドラゴンの大きな足跡だけが残って、ほかには草の根すら残らず、なにもありませんでした。ドラゴンのすがたも王さまのすがたも王子のすがたもないのです。
その後、ドラゴンをはじめ、この国を攻めるものはあらわれなくなりました。
国民たちは王さまと王子の命によってこの国は救われ、今もずっとこの国の平和を守っている――そう信じています。
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