昔話ノ章 森の奥の魔女バーチ

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 ある日、群れから外れてしまった精霊が、オオカミにおそわれていました。白くかがやく羽で宙を舞う、蝶のように小さくはかなげな人の姿をしたものが精霊です。しかしその精霊はオオカミにケガを負わされ、飛ぶことができなくなっていました。そんな危機の精霊を救ったのは、一人の人間の狩人でした。ウサギを追って森を走っていた狩人の男が、オオカミの異様な興奮に疑問をいだき、遠くから見張っていると、精霊がおそわれているのを目撃したのです。狩人がオオカミを追い払うと、動けないでいる精霊を助け、こっそりとポラリス王国の自分の家がある町まで連れて帰り、治療をしました。  精霊は数日のうちに元気になりました。けれどいつまで経っても森へはもどりませんでした。狩人と精霊は互いを好きになっていて、離れがたくなったからです。  数年後、精霊は狩人との子どもを授かりました。  精霊は子どもを育てるために一度、森の奥の精霊たちの群れにもどりました。しかし人間と交流を持った精霊を仲間たちは異端扱いし、受け入れることなく追い出してしまいました。仕方なく人間たちの町までもどり、狩人を頼ろうとしましたが、町でも精霊と通じていた狩人を痛んだと糾弾する声が上がっていて、狩人も森へと追いやられていました。  二人は悲しみました。違う種族で結ばれたことに、だれからも祝福されなかったこと。さらに拒絶され、居場所を追われてしまったことに。しかたなく二人は、森の奥に小さな小屋を建てて、狩人と精霊、そして子どもの三人で住み始めました。せめて子どもの生きる世界では、種族の違いで傷つくことがないようにと祈り、そして精霊は精霊の群れに、狩人は人間たちの住む町へと降りては説得を続ける日々を続けたそうです。その子どもが、今では森の魔女バーチと呼ばれるようになります。  親の祈りもむなしく、魔女は孤独の道を選びました。だれとも交流を持たず、人間と精霊たち、両方の記憶から消えることを選んだのです。
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