昔話ノ章 森の奥の魔女バーチ

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 森の魔女は物心ついたころからひとりでした。  ある日、散歩で湖に出かけると、真っ赤な体の人間がうずくまり、ほえるように泣いていました。なぜ泣いているのか、と魔女は尋ねました。しかし泣いてばかりで真っ赤な人間は答えません。しかたなく魔女は真っ赤な人間を小屋まで運び、温かいお茶を差し出しました。それでもしばらく泣いていた人間でしたが、お茶を飲み終わるころにはやっと落ち着きました。 「ぼくには記憶がありません。どこから来たのか、わかりません。でも、使命だけはこの胸に焼けるように強くあるのです」  それから真っ赤な人間は魔女の小屋とは別の場所に住処を作り、たまに魔女のもとに訪れたそうです。 「湖にいる兄……いいえ、楼主の手伝いをしています」  赤い人間はそう言っていました。魔女も楼主を手伝おうと思いましたが、八本の脚におどろいてしまい、断念しました。真っ赤な人間はやがて年を取っていき、魔女の小屋への来訪も減ってきたころ、とつぜん小さな赤い子をひとり連れてきました。 「この子がひとり立ちできるようになるまで育ててほしい」  それ以来、赤い人間は姿をあらわさなくなりました。真っ赤な赤子はひとり立ちできる年になると魔女の小屋を出て、年老いたころに次の赤い子を魔女に預ける、ということを繰り返しました。  赤い子が何代目になっても魔女は文句ひとつ言わずに育てます。それが魔女の生きがいになっていたからです。赤い子をたくましく強く生きられるように、と大切に育てる。  はじめて魔女がいだいた、他人への愛と、生きることへの希望だったからです。
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